内容説明
近代以降、人対人の相互行為であるべき政治に「仕事」や「労働」という人対物の一方的行為のモデルが適用されたことが、今世紀、全体主義という怪物の跋扈をもたらした。「活動」とは、アリストテレス的な「実践」概念の復活であり、その舞台となる公的領域とは、人々が対等な立場で対話する空間である。この自由を本質とする「活動」として政治を再生しようとする試みは、大衆社会のなかで立脚点を喪失した人間の救済をめざすアレントの問題意識の結実であり、政治が公的な営為であることを我々に再確認させる。本書は、ハンナ・アレントという思想家の思想についての概説書である。
目次
第1章 十九世紀秩序の解体―『全体主義の起源』を読む 前編(『全体主義の起源』の謎;十九世紀政治秩序;破壊のモーターとしての帝国主義 ほか)
第2章 破局の二十世紀―『全体主義の起源』を読む 後編(国民国家体制の崩壊;「社会」の解体;二十世紀秩序としての全体主義 ほか)
第3章 アメリカという夢・アメリカという悪夢(アメリカとヨーロッパ;『革命について』;共和国の危機―その一 ほか)
第4章 政治の復権をめざして(労働・仕事・活動;アレントの政治概念;個・公共性・共同性)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
デンプシー
1
公共性についてのアレントの考え方が知りたく、購入。結局公共性や、気になっていた彼女の評議会制についてのアイディアについては、期待していたような成果が得られなかった。ただその他の部分で面白い記述があったので良しとしよう。今の段階ではナショナリズムや権力にはそこまで興味が無いため、流し読みした部分もそれなりにあったが、いずれ戻ってきた時には良い着想を得られそう。やはりアレントの切り口はユニークで、ハッとさせられることもあると思う。2022/07/17
本を読む日々
0
あいも変らず、このシリーズは読み易い。おそらく、人物の体験と思想の解説を平行してやっているからなのだろう。これを書いているとき、その人はどんな状況下にあって、何を問題視していたのかが良く分かる。 しかし、一方でそれは危険でもある。その理解は純粋にテキスト読解から得られたものではないからだ。2014/01/10
スズキパル
0
あえて雑なレッテル張りをするなら、アレントは近代における「政治」の領域に対する「労働」や「仕事」の侵食を危惧し、人間の相互の「活動」に基づく、本来的な「政治固有のもの」の復権を語った、保守的な政治思想家と言えそう。しかし、彼女の全体主義理解の根源には「国民国家」の枠組みの限界に対する冷徹な分析もあり、近代以前の政治への「復帰」の不可能性も自覚していたのだと思う。全体主義への危険を孕んだ現代の大衆社会の「乗り越え方」を彼女は示しているわけではないけど、その分析は鋭い。けっこう難しい本だったので、要再読。2012/12/16
卯の花
0
2022年5月現在、ロシアによるウクライナ侵攻の現実を前に、本書で解説されるアレントの政治思想は、極めてアクチュアルな課題への取り組みと映る。本書前半部、「全体主義の起源」の解説は、19世紀から20世紀前半にかけて、ヨーロッパにおいて19世紀の社会体制が行き詰まり20世紀前半の全体主義の勃興を招くに至る状況を対象としながら、21世紀の今を語るかのよう。本書で語られるアレントの問題意識、また現実問題としての全体主義が強いる難民の増加や事実を捻じ曲げる政治指導者たちの存在など、今も向き合う必要のある内容多々。2022/05/19
7ember
0
1日で読めるでしょと渡されたけど1週間かかってやっと読み終えた(涙)。アレント個人の伝記的事実は抑え目で、最低限の歴史的背景の紹介をして読解に入っていくスタイル。それなりに濃密な内容だが「ここはXXから影響を受けていて…」みたいな言及も少ないので予備知識がなくても読める。後書き で紹介と批判のバランスで悩みながら書いたとあるけど、丁度いい塩梅でした。2018/12/28