内容説明
朝鮮戦争で来日したリチャードと結婚して幸恵がルイジアナ州バトンルージュに暮らしはじめて三十年。その幸恵の言動崩壊が始まり症状は目に見えて進んでいく。夫は妻の欝病に心あたりがないでもない。国際結婚と老いの孤立を描く現代文学の秀作。芥川賞受賞作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
遥かなる想い
176
第109回(1993年)芥川賞。 結婚して アメリカに渡り、二人の息子を 育てた64歳の女性を描いた物語である。 夫リチャードの視点で描かれる幸恵の 振る舞いは 痴呆の傾向から やや奇妙になり …戦争花嫁という言葉が時代を彷彿させる。 生きた人生と 喪われていく思い出が 微妙に寂しい…そんな印象の作品だった。2018/02/25
kaizen@名古屋de朝活読書会
99
【芥川賞】国際結婚した幸恵。寂寥という文字が本質を突く。ルイジアナ州バトンルージュという街の雰囲気は知らないが、アメリカらしい生き馬の目を抜く様子が覗える。訴訟の話も重みがある。2014/01/27
ヴェネツィア
86
1993年上半期芥川賞受賞作。ルイジアナ州のバトンルージュが舞台。その前年に日本人留学生の服部剛丈君が射殺された町だ。いわゆるディープサウスであり、農業地帯。作者の吉目木晴彦は、この街に2年間を暮らしたようだが、それも彼が9歳から11歳までの事。あのような地でのコミュニティの日本人女性(主人公の幸恵たち第1世代は「戦争花嫁」と呼ばれた)の置かれた状況を、強いリアリティを持って描き出している。しかも、その晩年において文字通りの「寂寥効野」(ソリチュード・ポイント)に立たねばならなかった幸恵の苦悩は深い。2013/10/20
はらぺこ
53
『寂寥郊野』と『うわさ』の2作品収録。 表題作の『寂寥郊野』はアルツハイマーの話やし、『うわさ』はご近所さんや家族・親族との話やから読んでて気分が暗くなる。 キラキラした未来を夢見る小学生が読んだら大人になるのが嫌になるやろなぁ。芥川賞は楽しくて笑える作品やったらアカンのかな?と文学の良し悪しが分からん自分は思いました。2014/06/10
hit4papa
42
国際結婚をし、ルイジアナ州で暮らす日本人妻。三十年を経て、老齢となり言動に異常がみられるようになります。鬱症状が進行し、アルツハイマーの兆候を見せ始める妻に、外国人の夫、子供らは戸惑いを隠せません。読み進めていくと、妻の精神的に孤立していく様にいたたまれなくなります。タイトルは、一家が多大な金銭的犠牲を強いられることとなった事故現場。ずっと心に不幸を抱え込んでいた妻の孤独の象徴でしょう。収録作の「うわさ」も設定は違えど孤立感は同様です。こちらは、読みながら何やら怒りが沸騰してしまったよ。【芥川賞】2021/10/28