内容説明
聴覚をわずらい、目的のない旅に出た。「音のない世界」を彷徨いながら、鮮明すぎる過去の記憶と向き合う彼は、旅の終わりを見つけようとしていた。癒しと救いの意味を探す、長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おかむー
47
ロードムービー的物語で、じんわりと穏やかに癒されるようでもうひとつ共感しきれないところがちょっと残念。『もうすこしです』。妻とは離婚し子供も成人を迎えた主人公・寛久は、ストレスによる突発性難聴で長期休暇を取り、あてもなく旅に出た先のドイツの街で不思議な女性・カスミと出会う。“一卵性の旅友”として旅をすることになったふたりはそれぞれの欠落や傷と向かいあってゆく。寛久の生まれ育った瀬戸内の島での描写が生き活きと描かれている反面、カスミとのやりとりが終始不自然で癒しの物語としてはなんだか座りが悪い感触なんだなぁ2015/03/20
ころも
4
この感じどこかでと思ったらまさにあれだな、やすらぎの郷の栄ちゃんとアザミちゃん。女子が年上の王子さまを求めるようにおじさんは若き女神を求めるものなのかもしれない。都合のよさはこの際おいておこう。終盤具体的な年齢が出たように思うが、ヒロマサ52歳だったのか…。なんというかもっと老いを感じてしまったな。なぜか70代弱ぐらいかと思って読んでいたかも(笑)。現在の年長者は年齢では量りかねるものがあるものね、ピンキリすぎて。2018/12/25
カオル
2
年を重ねた大人にしか書けない本。主人公ヒロは作者自身の姿なのか、とても生々しい心情描写。人生を迷った時にまたこの本を読みたい。「人の一生なんて本当に小さいものだからね。天から見ればきっと一瞬のことなんだよ。そんな一瞬に偶然とか奇跡とかは起きないよ。決まった道を我々は歩いているのかな。」「自分の論理でしか話せない、考えられない人が孤独に見えるのだ。」「人の表層は年月をかけて変化するが内面はあるところまでに出来上がったまま変化しないのではないか」「自分の神は自分の中にしかいない。」2010/08/15
すながが
1
旅で出会ういろんな人・風景・出来事を通じて次第に変化していく主人公の様子を中心に話が展開されていきます.
旅先で出会ったカスミの女性像だったり,過去に整理を付けていくその感覚が私には響かなかったけど,最後には本を閉じたこの瞬間からでも,自分の道に本気で進んでいこうと思わせてくれました.私が歳を取ったらまた読んでみたいです.きっと今とは違う味がする気がします.2014/03/14
旅先で出会ったカスミの女性像だったり,過去に整理を付けていくその感覚が私には響かなかったけど,最後には本を閉じたこの瞬間からでも,自分の道に本気で進んでいこうと思わせてくれました.私が歳を取ったらまた読んでみたいです.きっと今とは違う味がする気がします.2014/03/14
遠い日
1
苦しんで苦しみぬいた果てに光が見える物語だ。その光は孤独のうちにではなく、人との関わりのなかでおずおずと心が導かれていった先にほの見えたものだ。幾多の逡巡と停滞を繰り返しつつ、過去と現在を行きつ戻りつする心を受け容れていく過程が旅であった。訥々とした語りに惹かれ、読むうちに居ずまいを正す私がいた。タイトルの、まさにその「雲と海の溶け合う」シーンは感動的だ。彷徨う心が行く道を見いだした、その喜びが読み手の心をも癒す。ほのかな、けれどもあたたかな幸福感に私は包まれた。2008/08/12