内容説明
ノルウェーの美術大学に留学することになった染色家の妻。その旅に同行することになった主人公。妻の主任教授・エディット、同級生・メリエッタ、同じアパートに住むリーヴ、心に傷を負った少年・エスペン。ノルウェーの小説家・ヴェーソースの小説『The Birds』を訳しながら、主人公はノルウェーでの野鳥のさえずりに興味を持ちはじめる。光り輝く北欧の夏、太陽の消える陰鬱な冬、歓喜とともに訪れる春。ノルウェーでの一年間を、自らの体験、意識をとおし、細やかに紡ぎ出した傑作長篇小説。六年の歳月を経て書き継がれた、精神の快復、そして希望の再生の物語。私小説作家の新境地。
著者等紹介
佐伯一麦[サエキカズミ]
1959年、宮城県生まれ。1984年、「木を接ぐ」で海燕新人賞を受賞しデビュー。1990年、『ショート・サーキット』により野間文芸新人賞、1991年、『ア・ルース・ボーイ』で三島由紀夫賞、1997年、『遠き山に日は落ちて』により木山捷平賞、2004年、『鉄塔家族』により大佛次郎賞を受賞している(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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踊る猫
30
これといってドラマティックな山場を持つわけでもなく、なにか崇高なテーマを問い直すような素振りも見せず、物語はゆるゆるとおだやかに進む。起伏のなさがしかし「平坦」「退屈」という印象に結びつくことなく、かえって大河のような安定感として感じさせられてしまうのは著者の語り口の妙味ゆえか(あるいは個人的に、こうした「日常系」というか「slice of life」を扱った作品に弱いからかもしれない)。たしかなふくらみを持ち、心に沁みる作品と受け取る。人生と似たがる作品はたいてい陳腐だが、こんな例外もあるのだなと唸った2025/03/01
くみこ
8
初読み作家さん。留学する妻に同行して、一年間をノルウェーで過ごした作家の話。移りゆくノルウェーの自然の様子や、淡々とした日常生活が丁寧に描写される私小説です。過去や精神に傷を抱えた主人公が、少しずつ癒されていくような安堵感がありました。観光ブックでは知り得ない、生活者が見たノルウェーに出会う楽しみも味わえます。2016/02/05
minota
4
直感で購入。中身もほとんど見ずに。そして物理的に重いので通勤に持っていくのを躊躇していた。堀江を読み終わって、じゃ次はこいつってこれまた何も考えずに通勤の友にした。 そしたらどうだろう、この重量に負けない重厚感。 作者と同じ時間と空間を共有することが出来るので、自分はせわしなく日々を過ごしていてもこの本を読むことでゆっくりと思考を重ねる体験・時間を持つができる。2013/06/14
Mark.jr
3
佐伯一麦さんは現代の日本文学の中でかなり見られなくなった私小説の書き手として知られています。私小説と言いますが、田山花袋の「布団」に代表されるやたらスキャンダラスなゴシップめいたものではなく、佐伯さんの小説は軽妙なエッセイや随筆に限りなく近いものです。奥さんの留学の付き添いて1年間ノルウェーに滞在した時を題材にしたこの本も軽妙かつ淡々と日常を綴ったものです。読んでいるうちに不思議と心が落ち着く、暑い夏に納涼の一冊です。2018/08/06
あり
3
淡々と丁寧にノルウェーでの日常、文化や言語や気候の違いによる苦労、感受性の変化、闇、人々との交流など描かれ、それが読者の日常にも染み出すよう。静かで暖かな一冊。いろいろな楽しみ方ができる。作中に出てくるノルウェー語を発音してみるのもいいし、その地の鳥や自然、それらを人々がどう感じているかに触れられるのも一興。長い冬と短いが豊かな夏、芸術家や作家などの話もよい。毎日少しずつ読んでいたので生活の一部を登場人物たちと共有している感じで(そういう、生活に寄り添った読書に適した本だった)日々とても心が満たされていた2015/03/08
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