内容説明
花の都パリを造り、消費資本主義を生みだした皇帝は、貧困根絶をめざした社会改革者でもあった!?この摩訶不思議な人物の実像を徹底的に解明する。
目次
第1章 陰謀家ルイ=ナポレオン
第2章 大統領就任
第3章 皇帝への道
第4章 第二帝政―夢の時代
第5章 社会改革
第6章 パリ大変貌
第7章 二つの戦争
第8章 第二帝政の終焉
エピローグ その後の皇帝
著者等紹介
鹿島茂[カシマシゲル]
フランス文学者。エッセイスト
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
43
英雄と評されがちな叔父に比べてマイナス評価されがちな甥だが、実は結構したたかで、本心をなかなか見せず、ぼんくらと思われている間に無血クーデタなんていうものをしらっとやってしまっている。また、彼が信じていたのはインテリ層ではなく民だった。ブローニュの森の整備、パリ大改造、社会福祉制度の充実など、国民に手厚い政策を次々と打ち出している。但し、もともとの生まれが生まれなので、額に汗して働いた自分の金でそれらを行おうなんて考えはみじんもないし、私生活における華やかな女性関係もまた、庶民とは縁遠い。2019/04/06
ばんだねいっぺい
28
今まで分りやすい英雄にばかり目を向けていたと後れ馳せながら気がつかせてもらった。陰謀家型の英雄は、見えにくくとも権力を掴んで離さない。いやぁ、パリ改造のくだりは、興奮した。オスマンの回想録が読みたい。2023/11/14
富士さん
9
再読。歴史は当時の目線で評価しなければ、という話はよく聞きますが、なかなか出来るものではありません。本書は、ひとりの奇人の伝記にとどまらず、その人がその時代に持った意義を見事に描いた稀有な例だと思います。労働と規律に重きを置く価値観、開発独裁、有効需要の喚起による経済政策、信用に頼る社会など、今では別物として切り取られているものが社会主義の下に収斂しているこの人の有様を描くことで、教条化し集団主義に陥る前の、魅力と可能性に富んだ、左右関係ない希望であった社会主義思想の歴史的一面を見事に活写しています。2019/01/12
Saiid al-Halawi
6
間抜けで浮ついたサン=シモン主義者ってくらいの印象だったけど、評価が130°くらいは変わった。貧困の根絶っていう信念・理想を体現できる位置にあって、実際に最後までその実現に努めてきた傑物。嫁うざすぎ。内外の政治的な状況がもっと安定でスッキリしてたら稀代の名君になってたろうなぁ、と。2012/07/14
たらら
5
ナポレオン三世像を再編する傑作。もう学術文庫に入ってもおかしくない。1951年の権威帝政から1960年以降の自由帝政期において成し遂げられたことを考えると、また、『ナポレオン、フーシェ、タレイラン』を併せて読むと、結局革命的に社会変革をもたらすには、独裁的な政権が必要なのではないか、ことにルイ=ナポレオンが社会主義的な政策をごり押しして成立した過程を見れば、結局はマルクスが夢みた方針はそれほど間違ってはいない。本書でも陰に陽に指摘されているとおり、マルクスとマルクス主義は異なる物だから。2010/07/22