内容説明
マダム・ヴィトラックの100歳の誕生日祝いに配られた詩集と、98歳の「小娘」イヴォンヌの何日にもわたって続いていく昔語り―。日付の感覚を失っていく「私」の目の前に、ふたつの大戦に翻弄され正気を失ったミッシェルの魂の物語が浮かび上がる…。傑作長編小説。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaoru
40
2000年のフランスで、98歳のイヴォンヌが語るミッシェルという男の一生。第一次大戦で記憶を失い、第二次大戦を経た彼の魂の記録が聞き手である日本女性に語られる。ヨーロッパ、いや人類の悲劇の時代にミッシェルはどう生き、浄化されていったかを平明な美しい日本語で綴る物語。フランスを愛しパリに住んだ作者ならではのヨーロッパの歴史や宗教、風土の捉え方。「きれいな人」とはミッシェルであり、イヴォンヌやシモーヌでもあるのだろう。世界文学の域に達した作品だと思う。どこからか吹いてくる静かで清澄な風を読後に感じる一冊。2020/10/05
みねたか@
28
100歳を迎えた友人の誕生日に招かれ滞在した2000年7月のブルターニュ。老女を慈しむように静穏に流れる時間。しかし、そこで語られるのは、二度の大戦を挟んだ歴史の大きなうねりとその中で翻弄される生。改めて、第一次大戦がそれまで数々の戦争とは全く様相が異なり、欧州の人々の心に深い傷跡を残したことを知る。そして南へ南へと人々が追い立てられるホロコーストの不気味な予兆。著者の描いた深みをどこまで見通せたか不安だが、何か深く刻まれたように感じる。2022/10/28
あ げ こ
5
九十八歳の小娘が語り続けるのは、何度も何度も、繰り返し言葉にすることによって、今はもう、自分自身のものとなってしまった、愛する者の記憶。熱心な聞き手である「私」が引き出す思い。語り手の言葉が紡ぐ思いは、「私」の中に、深く刻み込まれていく。正気を失うと共に浄化された、無垢な魂。無償の愛が導く再生。帯び始めた濁り。蘇った記憶が生む幻覚に、再び砕け散る心。人間は自らに刻み込まれた思いを言葉に乗せ、生を語り継ぐ。時に自らの人生さえ全て、愛する者の生を伝える為に明け渡してしまう人間の愚かしさが、たまらなく愛おしい。2014/03/02
-
- 和書
- 小児科救急マニュアル