内容説明
人のこころのかたち、時代の心の音に耳を澄ませばこの10年の荒涼の風が渡る。戸外は炎天、家の内は午睡の時刻。蕪村の句に、寂寞と昼間を酢のなれ加減―たとえば朝のうちに樽にしこんだ魚。午後に入り、日盛りのきわまる頃、板の間を伝う涼風にのるかすかな香りが…。
目次
1 1993年の随想(あなたは今、何をしてますか;物たちの冷笑;無為の窓辺に来る小鳥;総身に針;夜ごとの店じまい;恐るべき復元への執念;「わたし」はまだ在る;窮地でひそかに泣き出す;長距離ランナーの顔;寂寞と昼間を ほか)
2 1983年の随想(ほととぎす;耳を澄ます;過敏と鈍感;耳ざわりにクリスタル;地底からの連絡;16年前の眼;林の声;月日を知らぬ暮らし;老いやすき時代;起きあがり小法師 ほか)
感想・レビュー
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山がち
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どこか既視感があるような断片があったが、これは同じエッセイを読んだものかそれとも小説で読んだのか皆目見当がつかない。「「わたし」はまだ在る」の、「私」という身体がおよそとてつもない広がりを持って感じられる、身体の苦痛は妙に気を引いた。「則天去私といきたい」という言葉はむしろ空恐ろしく、しかし一方で無限の宇宙ほど広がってしまうというのも恐ろしいものがある。そして、その先には何があるのか、わずかに広がっていくそちらの思考には、単に進めなかったのか、それともためらったのか、いずれにしよ恐ろしい思索のようである。2013/12/18