内容説明
アルツハイマー病が愛を砂漠に変えた。国際結婚と老いの孤立を描く現代文学の秀作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
72
小説の舞台は、アメリカ合衆国南部の州であるルイジアナ州。郊外のSolitude Point (河岸の農作地)が舞台。白人中心の州。日本人は苦しい立場にあった。主人のリチャードが違法な農薬の汚染で健康被害を出したという汚名で仕事を失ったことを契機に、奥さんの幸恵の言動崩壊が始まる。アルツハイマー型認知症かどうか、医者の診断は確定しない。リチャードは収入の道が途絶えたことが原因だと思うが、物語が進むうちに日本人妻である奥さんの孤立、そのことが主人にも理解されていなかったことが主因ではないかとも思われてくる。2020/07/16
James Hayashi
32
109回芥川賞受賞作。先日読んだ「ルイジアナ杭打ち」の印象から手に取った作品。選者からの評価は高い。ルイジアナの郊外のSolitude Point (河岸の農作地)が舞台。それを著者が寂寥郊野と訳す。年老いた夫婦だが、妻は米国軍人と結婚した日本人。穏やかに暮らしていけそうだが、農薬問題があり夫は職を失う。同時期に妻はアルツハイマーか鬱を疑われ、家族に不穏な空気が流れる。その描写は卓越したもの。もう1つの短編は今で言うイヤミス。近隣との関係や家族との関係を表しているがストレスのかかり具合が重く読み応えあり。2017/10/24
山口透析鉄
23
市の図書館で本を借りて読みました。 芥川賞だけ持ち上げるつもりもありませんが、中編2編の作品集としては、やはり前半の「寂寥郊野」の方が完成度は高そうでしたが、「うわさ」も同量圧力の強い日本の世間っぽさが良く出ていました。 私も子どもの頃には海外で生活していた経験がありますので、作者の視線には共感できる部分が多いです。 大規模農業の諸問題も本当はあるのでしょうが、そういうの、マスメディアにはほとんど出ません。 30年ほど前に書かれた小説ですが、今にも通じる部分はありました。2023/02/11
Sanchai
5
先月10年ぶりにルイジアナ南部に、昔の知人を訪ねた。93歳で、最初は僕のことが誰だかわからなかったみたいで、寂しさを感じた。ご本人の方がもっと感じられることが多いに違いない。因みに、本書の舞台でもある「寂寥郊野」のあたりには、昔釣りに連れて行ってもらったことがある。バトンルージュが舞台なのに、あまり黒人が登場してこないところに、生活空間が明確に分離されていて交わるポイントが少ないこの町の様子が窺えた。芥川賞作品のわりに、読みやすかった。言うまでもなく、受賞直後以来の再読である。2013/04/09
bb
4
押し殺してきた感情が飽和したときに、人間は壊れてしまうのかもしれない。