内容説明
昭和二十七年の大晦日、二十一歳で列車に身を投じた伝説の女性作家・久坂葉子。名門家庭の重圧に抗いつつ、敗戦後の自由と倦怠の空気の中で、自らの芸術を追い求め、愛と性に殉じた可憐で強烈な生涯。三人の男性の間で激しく揺れ動く自分を「罪深き女」と断罪し、本当のことのみを書くと、死の当日まで綴った作品を残して逝った、その死に至る過程を、師の温かい眼差しで見事に描破した力作長篇。
著者等紹介
富士正晴[フジマサハル]
1913・10・30~1987・7・15。小説家。詩人。徳島県生まれ。1932年、三高時代、野間宏、竹之内静雄と親しくなり、三人で竹内勝太郎に師事、同人誌「三人」を創刊。35年、三高退学。44年~46年、応召し、中国大陸へ。47年、「VIKING」創刊。48年、野間、井口浩との三人で詩集『山繭』刊行。この間、師・竹内勝太郎の著書の編集にあたる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ましろ
3
久坂葉子という女性をもう一人出現させた作品。2008/08/25
misako
2
だいぶ時間がかかってしまったけど、完読。久坂葉子。どことなく気持ちがわかってしまう。それは単なる憧れかなにかわからないが、愛するが故に傷つけてしまったり、矛盾や情熱。自己嫌悪。着々と「死」に向かって生きていく姿。愛していたのに、愛されていたのに。どれも、嘘で本当だったのだと思う。1953年12月31日。その日まで実在していた若き女。その生き様を、師、富士正晴が書き上げた一冊。久坂が死ぬ直前に書き上げた「幾度目かの最期」では端折られていた背景などが事細かに説明されていて、ますます彼女に魅了された。2013/01/15
isbm
1
★★★☆2023/08/21
アメヲトコ
1
21歳の若さで阪急電車に飛び込んで自殺した作家、久坂葉子を、その師であった富士が描いた伝記。「贋」とあるとおり、そこに描かれる久坂は実在の久坂そのものではなくあくまでも富士を投影した久坂像であって、富士の久坂に対する愛と後悔が痛々しいほど伝わってきます。2016/01/03