内容説明
「サッちゃん」「ねこふんじゃった」等で、世代を超えて愛される童謡詩人・阪田寛夫は又、片隅のささやかな人生をあえかな情感と上質のユーモアで描く小説家であった。脳溢血で倒れた作曲家の叔父の滅びゆく肉体を凝視しつつその内で鳴り続ける最後の音楽を哀惜こめて書き留めた表題作ほか九篇。初期作「平城山」から遺稿「鬱の髄から天井のぞく」まで、“含羞の詩人”の知られざる名品を精選。
著者等紹介
阪田寛夫[サカタヒロオ]
1925・10・18~2005・3・22。詩人。小説家。大阪市生まれ。両親は熱心なクリスチャンでかつ音楽好き。大中寅二(叔父)、大中恩(従兄弟)等、音楽を身近に育つ。1950年、友人の三浦朱門等と同人誌「新思潮」を立ち上げ習作を始める。東京大学国史科卒業。朝日放送に入社、上司の庄野潤三に影響を受ける。63年退社後は童謡の作詞、放送台本、ミュージカル制作で数々の賞を受賞。小説では、74年、「土の器」で芥川賞、87年、「海道東征」で川端康成文学賞を受賞。89年、日本芸術院恩賜賞を受ける。評伝文学、児童文学にも大きな業績を残した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
78
「サッちゃん」や「ねこふんじゃった」の童謡で知られる作者の音楽と歴史や家族の事を描いているのだが、なんとも生々しいエゴと優しさがある。特にキリスト教徒だった父を俗物として批判する虎次叔父の哀愁は強烈。そして「音楽入門」で介護される父が「君タチハ、ジンケンジュウリンダ。ブンナグルゾ」とたどたどしく、怒り出した時のエピソードが突き刺さる。日頃の母の介護の邪険さなどに思う所があった嫂が「ぶんなぐってください、おじいちゃん。今まで辛抱ばかりしてきなさったから。おじいちゃんは叩く権利があるんよ」と言うのも圧巻。2018/07/06
くみっふぃー
5
収載されているすべての収載作品を読もうと思ったが断念。『音楽入門』『うるわしきあさも』『鬱の髄から天井のぞく』のみ読了。その他の作品は斜め読み。2014/05/24
AR読書記録
1
「熊にまたがり空見れば/おれはアホかと思われる」.そんな台詞を宣う大阪のおっちゃん,を想像したときに,ぴたっとはまる,ものすごく納得する短編もあり.かと思えば,女性の心も痛みも描ききったと感じられる,ほんまにあんた男なんか?と思いたくなるような短編もあり.芥川賞作家であるというのに,今まで全然知らなかったのはほんとうに悔しくなる,そういう作家さんに久々に出会えました.『陽なたきのこ』(タイトルもたまらん),私の生涯ベスト10小説に絶対に入るナ.2013/03/04
qbmnk
0
阪田寛夫は短編が読みやすい。10編所収で近親者の老いや死を描いた芥川賞受賞作の系列から子どもの視点のものまで幅広い。子ども視点の作品は童謡のようなやわらかさを持ち、大人の観察眼で子どもの生き生きとした感性も描かれて中勘助の「銀の匙」を連想させる。子どもの頃に感じたものを鮮やかに描き出していて懐かしいような温かい気持ちになる。大人の目で大人を描いた作品は対象により相手への容赦の仕方が変わってくるが、身近であるほど愛情の濃さが厳しい現実の描写の中に現れているように思う。「海道東征」は曲を聞きたくなるのが良い。2025/03/22
Akiko Yamashita
0
大好きな大浦みずきさんのお父上にして「サッちゃん」の作者でもある詩人・小説家、阪田寛夫さんの没後にまとめられたエッセイ集。