内容説明
岩野泡鳴自身をモデルにした主人公・田村義雄は、或る夏脚本を書くため国府津に出掛ける。そこで土地の男と芸者吉弥を張り合うことになるが…出世作「耽溺」のほか、樺太に渡り蟹の缶詰事業を試み失敗し北海道を放浪する経緯を描いた自伝的小説、自然主義文学中特異といわれた「泡鳴五部作」のうちの一篇「毒薬を飲む女」を収める。作家的地位を確立した代表作二篇。
感想・レビュー
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りー
22
手前の妻に向かってお前がいるから俺は家に帰りたくないんだ!だとか、早く自決しろ!とか暴言を吐いたり芸者を囲ったりと亭主関白もとい亭主専制がまかり通っていた時代にしてもクズすぎる主人公たちの人生の一幕を、おかしみを交えて描いた著者の自伝的小説。これを自伝的と銘打ってしまうあたりに岩野泡鳴のユーモアを感じずにいられないのだけれど、これがユーモアでなく事実だったら彼はただの小説が書けるクズである。なにはともあれ、主人公がクズなんだけども同じくらいに馬鹿丸出しで、そこが本書を愛すべき一冊にしている要因だろう。2015/05/16
かみしの
6
性病の妾を作って、妻には「自決してしまえ!」と怒声を発する屑男の物語。出刃包丁を突きつけられて結婚を迫られたり、耳元でこれからはあなたのめ、か、け、と囁かれたり、ある種戯画的な浮気ものである。明治時代の作品ではあるけれど、頭の中をよぎったのはクリープハイプだったので、時を越えて通じるところはあるのだと思う。『蒲団』が自然主義の嚆矢であるならば、岩野泡鳴もひとつの極地であろう。なんといっても、これが自伝的小説であるというところに、虚実皮膜の可笑しみを感じる。計算できない恋の感情だ。馬鹿にはできない。p1182017/08/20
hasegawa noboru
5
フェミニズムの観点を持ち出さなくても、今から見れば、完全にアウトの男の行状記。単なるスケベ根性丸出しのセクハラ親父の身勝手なあり様。いかに芸者を買い、妾を囲いすることがごく普通にあった、家制度に守られた男尊女卑社会の時代のこととはいえ。作家先生の叫ぶ、やれデカダンだ、耽溺が足りないだのには共感できぬ。その男(主人公)から淋病をうつされて、見棄てられる(だろう)吉弥やお鳥の結末が哀れである。婆あ呼ばわりされても、子を抱え自立して家を出ることかなわぬ妻たちも哀れである。もっとも切った張ったの喧嘩沙汰で女たちも2020/05/23
なめこ
0
本作の中心人物は、日本文学史上あまたのダメ男のなかでも稀代のクソ男(まさにケダモノ!)であるといっても過言ではないはずだが、心底うんざりしつつも何故だか読まされてしまう。いわゆる五部作はいずれすべて読まなければいけないとしても、耽溺の一人称が、五部作で三人称(一元)になるところなどおもしろい。2016/03/16
akira80
0
義雄♂と清水鳥♀のお話。 未練がましく暴力的な男女関係。義雄の家庭を顧みない無責任さにあきれる。2009/05/11