内容説明
敗戦時、混乱を極めた上海を舞台に、時代に翻弄され、組織の非情なメカニズムにとらえられていく人間の姿を、著者自らの体験をもとに描破した「歯車」、教会的権威と民衆の知との対立を追った「メノッキオの話」、宗教的熱狂の意味を問う「至福千年」など、小説五篇に初期詩篇を併録。歴史の中で自らの運命を背負いながら生きる個人を見つめ、戦後文学に新局面を切り拓いた堀田善衛の核心に迫る。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
A.T
19
日本の敗戦後、2年近く上海に留まっていた堀田自身の姿にも重なる「波の下」「歯車」。「歯車」は対日戦終了後内戦へと大きく歯車が動き出す直前の中国共産党と国民党の工作員の暗闘を描く。スパイ、工作といえばエンタメでお馴染みの現実離れした活劇を想像しがちだが、殺さなければ殺される非情な日常をリアルに描く。「鶴のいた庭」は大正まで続いた堀田善衛の生家 富山伏木の廻船問屋の没落を描いた。諸行無常、万物流転の視点の原点、曽祖父の望楼への最後ののぼりが数百年の廻船問屋最後のシーンへ重なる… 20頁余りながら余韻が残る。2022/02/13
hirayama46
5
はじめての堀田善衛。大別するといくつかの詩と、戦後の中国、及びキリスト教をテーマにした短編を収録。長編のための助走という側面もあるせいか、テーマと書かれたものがとても接近している小説が揃っていた印象。物語の陰にテーマが流れているのではなく、すべてのページにテーマにまつわるトピックが扱われているような、そんな雰囲気でした。長編も読んでみたいですね。2019/12/04
endormeuse
3
異国の日本人として"役割のない"生活の倦怠を綴った『波の下』と、調略に翻弄される人間関係を描いたスパイ小説的な風味の『歯車』の、終戦前後の上海を舞台にした二作品が白眉。"政治を信ずることもこれに身を任せ切ることもでき"ないまま、情愛も生死も、すべてが指からすり抜けるように落ちてゆく・・・という離人症的な虚無感情を基調にしている。2020/08/16
saba
0
昨今のニュースで連想した一節。「イデオロギーという所詮人間のつくったものが、何故人間にはつきものの曖昧さを許さず、そんなにも人間を追いつめてゆく運命的な力をもつようになるのか」。堀田善衛の前半生は翻弄、流転といった言葉で括れないような数奇なものだが、そんな作家が終戦後の革命期のイデオロギーに足をとられた中国で何を見聞きし考えたか。今こそ知りたい。2015/02/11




