内容説明
「言葉の風景画家」と称される著者が、硬質な透明感と静謐さの漂う筆致で描く青春の焦燥。生の実感を求め自衛隊に入隊した青年の、大地と草と照りつける太陽に溶け合う訓練の日々を淡々と綴った芥川賞受賞作「草のつるぎ」、除隊後ふるさとに帰り、友人と過ごすやるせない日常を追う「一滴の夏」―長崎・諌早の地に根を下ろし、四十二歳で急逝した野呂邦暢の、初期短篇を含む五篇を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kaizen@名古屋de朝活読書会
99
【芥川賞】軍隊から自衛隊に。断絶があるはずの組織であっても、指導できる人の能力によるのだろうか。自衛隊の精神とは何かではなく、自衛隊の日常が分かる。現実味のある物語は、社会勉強になる。地に足のついた自衛隊文学。2014/02/07
ヴェネツィア
73
1973年下半期芥川賞受賞作。森敦「月山」との同時受賞だった。ノミネートされていた中には、日野啓三や津島佑子もいたから、なかなかに激戦だったわけだ。さて、『草のつるぎ』だが、この作品は筆者の自衛隊入隊時の初年次訓練を忠実に描いたものだ。この当時は、まだ将校達も戦前の軍隊経験者や、海兵の学生だった者たちもいた。おそらくは、自らの実際の体験をかなり忠実に再現したものなのだろう。そして、そこで自己のアイデンティティの所在を問うのがテーマだ。ただ、最後にはそれが連帯感の中に溶解してしまうのは、なんとも残念である。2013/08/09
たぬ
24
☆3.5 芥川賞受賞作の「草のつるぎ」など5編収録。ほとんどは私小説みたいです。少年の頃のこと、自衛隊時代のこと。世の中をやや斜め上から見ているような、若干イキっているような…そんな若者像が浮かんできました。長崎の原爆に諫早の大水害と過酷な経験をしてらっしゃる。一読した感じあまりはまらなかったけどコバルトからも作品を出しているのは気になりますね。2023/02/28
michel
19
★4.0。ラストが好き。こういう終わり方、好きだ。いつの世も、若人は同じだな。若人たるもの”自我”の芽生えに自分で自分を振り回してしまう。自衛隊入隊時の初めの訓練生活が舞台。主人公の自我の芽生えに苦悶する心理が、まるで地べたの草の視点から描かれるよう。何かに憤り、何かに嫌悪し、何もかも疑い、何もかも拒絶し…仲間との交わりによってしか得られないものもある。私は好きな作品だ。2019/06/30
勝浩1958
10
「草のつるぎ」は作者が20歳のときに自衛隊に入隊して、1年間の体験を淡々と綴った作品です。別人になりたかった主人公は、果たして新しい自分を見出したのでしょうか。「一滴の夏」はなにをするでもなく、モラトリアムな自分を持てあましているような印象を持ちました。2016/07/02