内容説明
本書は、上流社会の二組の夫婦の生き方を精緻きわまる絵模様に写し出した著者晩年の長篇小説で、『鳩の翼』『使者たち』と合わせて後期三大傑作といわれる。
著者等紹介
青木次生[アオキツギオ]
1932年、長野県生まれ。信州大学教育学部卒業後、京都大学大学院修士課程修了。フルブライト奨学生としてイェール大学、ACLSのフェローとしてニューヨーク大学などに学ぶ。京都大学名誉教授。現在、甲南女子大学文学部教授。博士(文学)
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感想・レビュー
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syaori
29
下巻は、物語がほぼマギーの目を通して語られるため、各人の思惑は想像に想像を重ねるしかなく、迷宮の奥へ奥へと迷い込んでしまっているような感覚に陥ります。もちろん最後には出口にいるんですが、一体どんな道をたどったのか把握できていないありさまです。それでも、タイトルになった内部に瑕のある金メッキの水晶の盃はこの物語を象徴するものでもあると思うのですが、その盃の見えない瑕を確かめようと手に取り、叩いて澄んだ音を聞き、瑕の様子を想像しながら美しい端正な様子を堪能したという不思議な満足感をもって本を閉じたのですが。2016/11/02
ぺったらぺたら子
16
上巻はまだ読みやすかったのだ(泣)。下巻は養老天命反転地のように水平な所が全く無いので、兎に角、自分の立っている場所の感覚がおかしくなってしまう。マギーの妄想に辟易しつつも真実も透けて見える様で、たまに現れるアシンガム夫妻がオアシスの様だったのであるが、どうやらその読み方でおおよそ間違いは無かった模様。専門家の説でさえも致命的な誤読に基づくらしく、一体どんな読者に向けて書いたのだ!という程、難しい。訳者の詳細な解説はかなり信頼出来そうだが、訳文によって誘導された読みと合致するのは当然なのかも知れない。2018/07/15
白黒豆黄昏ぞんび
11
解説を読まなかったら危うく誤読するところだった!下巻は全てマギーの視点だと考えれば、様々な疑問が浮かんだことにも納得がいく。つまりマギーは相当に愚かでどうしようもない女なのだ!しかし人が成長する過程に於いて、特に未熟なまま大人になってしまった人に於いては、マギーのような考え・行動などはありえないことではないいうか、こういう人実際いますよね。やっぱり人間とは自分が一番かわいいものです。彼女はアメリカを象徴した人物として描かれたんだろうなあということがよくわかる。2013/06/18
きりぱい
11
アメリカの富豪の娘マギーとイタリアの公爵の結婚直前、昔結婚を考えたシャーロットがマギーの友人として現れ・・。ドロドロすると思いきや、皆が皆はっきりものを言わない口の重い展開。その分心理描写が濃いとはいえ、個々の意識なんて想像たくましい独り決めでもあるものだから、無垢に仕立てられたマギーに対して、嫌な女シャーロットの構図になりがち。世間ずれしていないマギーの目覚める下巻からが面白いのだけど、このマギーこそくせものと言え・・。この辺り長すぎる解説が面白い。まあ、後期三大傑作の中でなら、これかな。2012/08/02
彩菜
9
読まなければ良かった。100頁超に及ぶ青木氏の解説だ。自分の解釈以外を誤読と否定するなんてして欲しくなかったな。誤読なんて誰が決めるんだろう。ジェイムズの曖昧性は皆知るところだし、そこから生まれる多様な解釈も、彼の面白さではないんだろうか。諸説ある「ねじのー」にしたって、何が正しいかなんて決まっていたろうか。作者でない以上、どの説にも真実と間違いがある筈だ。それに又、主人公と共に長い旅をしてきた後に読者とヒロインに何の配慮もないこの解説を読まされたのは、氏の説も興味深かった事を思えばとても悲しかったよ。2019/05/25