内容説明
多情な女マカレと旅芸人の間に生まれた主人公は、母と養父を失い、長じて詩人となるが、反詩人運動家たちの迫害により殉死する―夢と幻想と怪奇趣味に彩られた自伝的小説「虐殺された詩人」を冒頭に置き、科学と迷信と魔術、エロチズムとピューリタニズム、人形劇や腹話術など、まばゆいばかりのアラベスクをなす多彩な短篇から構成されたシュルレアリスト小説の精華。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
かごめ
17
松岡正剛の「ルナティックス」に「月の王」の紹介が書かれていたので表題作と「月の王」のみ読む。アポリネールはシュールレアリスム以前の前衛作家とあった。登場人物、ストーリが前衛なのだろうが、解りにくい。読み進めていると、スルッと躱される。淫靡で猥雑、貴族的で下品が好きで、その鬼ごっこを想像力で追いかけられるなら楽しめるかな…私は追いつけませんでした。2020/06/09
ぎんしょう
3
劇を食事として摂取するという発想が面白く、例えば筋肉少女帯の「青ヒゲの兄弟の店」(作詞はアンジーの水戸華之介)なんて曲もある。詩人が表現することと、食べることはどのように異なり、どのように同じなのか。ドゥルーズ・ガタリは「書くことは断食すること」と述べ、安部公房の詩人はいつも飢えている。フロイトは経口摂取したものが内部を、吐き出したものが外部を成すとした。2011/12/15
rinakko
2
(こちらにも「月の王」、訳者が違うので楽しく再読)他にも短篇が多く収められているが、表題作が全体の半分くらいを占める。自伝小説的である「虐殺された詩人」は、作者の分身と思われる詩人クロニアマンタルの悲劇的な生涯が描かれた作品。幻想と詩に満ち溢れ、時にシュールな展開を見せるこの物語は、突如として風変わりな断片の継ぎはぎで話が進んでいく箇所があったりして、とても面白い。冷酷に詩人を捨てる恋人トリストゥーズ(マリー・ローランサンがモデル)との恋愛を始めとして、かなりペシミスティックに詩人の人生が見通されている。2011/08/07
okadaisuk8
1
科学への妙な思い入れ、非現実的で時に投げやりなストーリーの展開、単純な散文スタイルから逸脱する多彩な表現……中学生の時にもう一つの短編集「異端教祖株式会社」を初めて読んだときのの、思いもよらぬ所に扉があってそれが開いたような感覚を少し思いだした。「異端~」の内容は全然覚えていないんですが。当時の倍近く生きている今は、「まあ小説としてはちょっと軽いけれどね」、みたいな生意気な感想も少々持ちました(笑) 2016/05/13
Masashi Onishi
1
道に舞い上がる埃にしてからが、死者の灰以外の何だというのだね。 円卓のまわりでは、勇者たちは皆は平等ではない。ある者は目を眩ませられるような太陽の真向かいに座り、そして太陽はやがて彼から離れて、次にはその隣の者の目を眩ませる。他の勇者は自分の前に影を落としているのだ。皆勇敢でお前自身も勇者だが、夜と昼とが違うように、彼らにしても平等ではないのだ。2014/12/16