内容説明
老舗の主人が身代を投げ出して、店の下働きに来ていた年若い女と、市井の片隅で暮らし始める。一生を棒に振ったも同然ながら、今が生涯で最も幸福な時であると感じるゆったりした生活も、しのびよる老いには勝てず思いがけない結末を迎える―変転の末にゆきついた穏やかな老境を描いた名作「歌枕」(読売文学賞受賞)の他、「きりぎりす」「此の世」「残月」を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
YO)))
24
老舗の料亭を半ば追われるようにして,身代を捨てて辿り着いた侘住まいで,三十以上も歳下の女と過ごす余命の日々.枯れ切っているようでいて,男と女のことである以上,情愛の行き来が時に,老いて尚生生しくもあるようにも思えて,素直に飲み込めなかったりもする. 龍安寺の箒目をまねて庭を掃いてみたこともあるが,自分の手順で使わなければ美しい縞目には成り得ないと気付いた,と語る件りなどは,風流人の辿り着いた境地が伺えて良い. 『静かに、黙黙と箒を使っていると、掃いているのは土ではなく、自分の心の底のように思えて来る』 2014/10/09
ピンガペンギン
22
「時雨の記」(1977年刊行)の5年前から連作で発表されていた作品。「歌枕」骨董品に夢中になって禁治産宣告を受けた商人が、京都でかこっていた人とは別れることになり、下働きに来ていた30歳年下の女(一緒について行きたいと言って主人と上京する)とのつかの間の安らぎの時間を味わっていたが、それは長くは続かない。解説が周到に時代背景を教えてくれた。「残月」は「時雨の記」のヴァリエーションの様な内容だった。2023/12/27
キヨミン
1
以前読んだ「時の記」が好きだったので、図書館で借りて読みました。少し前の大人の世界。関係性は理解出来ないけど、静かな雰囲気は好きでした。2018/06/03
ユキリータ
0
静かにぐーっと引き込まれる。人物のありようも生活も今とはズレているのかもしれないけれど、ひとの心の動きは時代など関係ないのだな、と改めて思う。ああこれが教養というものかと思わせる独特の言い回し、文章のリズム、あと男性の台詞回しがとても心地よい。2017/01/26
Reiko 🍀
0
図書館本。歌枕。しっとり。こういうお話が読めるようになったなぁ。2016/12/27