内容説明
時計の行商をするために生まれ育った離島にやってきたマチアスは、直前ヴィオレットという若い女性を殺していた―外界とマチアスの意識との有機的な関係を、事物そのものに迫る数学的にまで昇華された文体で描くことによって、青年の荒廃した深層心理をうかび上らせたヌーヴォー・ロマンの傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Vakira
32
ロブ=グリエの小説4作目。この題名、覗くひと。もしや覗く者と覗かれる者?コボちゃん(安部公房)の「箱男」臭プンプン。琴線ビンビンの予感で読んでみる。ロブ=グリエにしては比較的判り易いストーリー展開。島での時計売りの青年の3日間の話。挑発的?やんちゃな少女(13歳)の登場と殺人事件。やっぱりそう来たか。ロブ=グリエの小説の必須アイテム。今回は期待していた覗く者、覗かれる者、私の入れ代わりはなし。すると「覗くひと」って誰?これが今回のポイント。読み手の想像力によって物語は変わります。ロブちゃんの思いは成功。2019/01/21
ちぇけら
24
繰り返される8のモチーフに感覚が研ぎ澄まされる。神経質なまでに細かく刻まれた時間が不気味だ。収斂していく時間と無限に広がっていく幻想――あるいは未来でありあるいは過去である現実としての時間――のなかで、時計を売り歩く男をワンカットの映像のように追う。男は不在証明〈アリバイ〉を頭のなかで積み重ね、一方で若い女が行方不明になった――当然ながら死んでいた。∞、乳房、罪を見つめる2つの眼、想像のなかで男を捉える手錠、扼殺にも使える束ねられた紐……。イメージがイメージをよび、加速していく。眩暈がする。2019/07/29
マウリツィウス
24
アラン・ロブ=グリエとは幾何学発展様式美の探求をギリシャ以前に活動した神々達を讃える伝承/史実二項継承作家-つまりはグリエ世界とは空間的であり物質的、寓意ではなく現実を踏破する点でボルヘス/ジョイスを二重批判還元、この幾何学空間の意味とはバベル図書館の完全否定と永遠の夜の双方《円環》根本反証により成立する。そして、批判言説はヴィトゲンシュタイン/ゴダール/ショーレム完全知識を逆に偽説的存在と定義することで正統思想家の権威をギリシャ時代に逆流させていくプロセス、この反論残滓皆無こそが「新しき文学像」を示す。2013/06/14
かふ
22
むちゃくちゃ眠くなる小説。同じところばっか読んでいる気がする。マチアスは頭悪そうに見えても計算ばかりしているから。彼は「時計」のセールスマンで時間と数字にこだわるのは、島に滞在できる時間が限られた中で時計を売りさばこうとする魂胆だった。でも売れない。頭悪そうなセールスマンだ。それに殺人事件を抱えているのだった。風景描写の時間は、ゆっくり流れる。それはせかせかした現代人には必要なことなのかもしれない。時間に縛られ生きている現代人は読書ぐらいゆっくりした時間の流れを感じて読んでみたらということか?納得です。2021/05/12
マウリツィウス
21
フランス文学史起源とされたロブ=グリエ、シェイクスピア古典主義に終末論を呈する。新約聖書史における明晰機能を確かに復帰させていくプロセスだ。そして、古代ユダヤ教における宗教像を完全復元、古典ギリシャ語文明史を支配/席巻、古代イスラエルより連綿と続く民へと返還する。古典古代ユダヤ教における《預言》、新約期における《福音》を照応、古代ユダヤ教に住まう四文字を蘇らせた。迫害される民を救済へと導く確固たる意思/意志、古典主義に終末を告げた英文学本来の矜恃をシェイクスピア時代から発掘していた。/最大最古復元回帰論2014/02/06