内容説明
ノリソダとは海苔の着生する粗朶のことであり、渥美地方の漁業権をめぐって、地方ボスの支配する腐敗、不正を日本共産党の地区細胞が暴露し、果敢にたたかう。その一部始終を一種の記録として作品化したものが本書で、我が国ルポルタージュ文学の先駆的作品。地方色豊かな登場人物をユーモラスに描き、日本の地方居住者のいまも変わぬ保守性、狡猾さなどの心性をも典型化し得ている。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
11
B ノリソダとは、海苔を付着させるための粗朶(木の枝)である。その棒と海苔の養殖を巡る、村の権力者と漁師たちの闘争の記録。社会派ルポルタージュではあるのだが、本書の魅力は何といっても人物描写。出鱈目な理屈で金をせしめる地方ボス「釜さ」を始め、敵も味方もどこかコミカル。養殖とはいえ、仕込んだ海苔が全て育つ訳ではなく、波に流されてしまう事も多い。それはどこか運任せで神頼みの生業なのだ。だからこそ彼らは思い通りに行かない不条理な日常の中でもどこかのーてんき。シリアスな状況の中の笑いこそ、本書の一番の魅力である。2013/01/22
YO)))
7
愛知,渥美半島は福江湾における,海苔の種付け利権をめぐる闘争史.地元のボス連に,共産党の細胞が立ち向かう社会派ルポルタージュ小説.と一面それは真実なのだけれど,著者の奇跡的とも言える軽妙飄々たる筆致によって,何よりもまず頗る面白い読み物として成立しているところに特色がある.ボスの一人釜之助なんぞは,組合の金を使って誰彼の隔てなく飲みに連れて行くもんで,「言われてる程悪い人じゃない」と呑まれてしまう人が多かったり.共産党細胞も郷里で活動してるもんで「太平のせがれ」と呼ばわれたり.田舎のリアリティが凄くある.2015/08/25
sabosashi
3
戦後、民主化されたはずのニホンで戦前の悪弊は取り除かれたはず。 しかしじっさいは揺れもどし(逆コース)があったことは周知の事実。 愛知の海岸地域でも、かつてのボスが支配する仕組みにいかに抵抗したかがここでは語られる。 著者はコミュニズムに近づき、抵抗原理として魅力を感じる。 しかしコミュニズム、その中枢と現場での乖離が大きいこともすでによく知られている。 この愛知の現場では、細胞を基盤としてコミュニズムが社会正義を標榜し、一般のひともその点で共鳴するところがあったようである。 2014/10/15
ねぎとろ
2
ユーモアを交えた文体で楽しめる。私が言うまでもないが傑作ルポである。 しかし暗澹とした気持にもなる本。これは昭和20年代の話にもかかわらず、解説にもあるようにまったく今、現在の話として受け取れてしまうからだ。 自分のみの利にさとく、権力に極めて弱い地域ボス、ボスの下にうごめくお調子者たち、一時の団結で熱が冷める人民、都市部であろうと地方であろうと、我々の周りに幾らでもいる人々の原形がここにある。検察や警察もその構造自体は今と変わらない。我々の民主主義はこの60年間何をしていたのか、と思わされる。2013/01/20
-
- 和書
- もっと知りたいネパール