内容説明
小樽高等商業学校に入学した「私」は野望と怖れ、性の問題等に苦悩しつつ青春を過ごす。昭和三年待望の上京、北川冬彦、梶井基次郎ら「青空」同人達との交遊、そして父の危篤…。純粋で強い自我の成長過程を小林多喜二、萩原朔太郎ら多くの詩人・作家の実名と共に客観的に描く。詩集『雪明かりの路』『冬夜』誕生の時期を、筆者50歳円熟の筆で捉えた伊藤文学の方向・方法を原初的に明かす自伝的長篇小説。
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感想・レビュー
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NAO
74
ジョイスの『若き日の芸術家の肖像』を模範にして、詩人として立つことを決意した少年時代から、『雪明りの路』を自費出版し、上京して多くの詩人達と交友しはじめた20代半ばぐらいまでのことを描いているが、50歳になって書かれているため、若き日の自分をかなり客観的な眼差しでとらえ、まだ若くて稚い青年の文学に対する思いや反応を冷静に分析している。また、自分が出会った文士たちのことが記されているのだが、中でも、先輩だった小林多喜二の姿、上京後の北川冬彦や梶井基次郎との交流の場面が印象的だった。 2019/07/15
冬見
7
後半は自分にも覚えのある感情にたびたびぶつかり、(もちろん彼とステージは全く異なるけれど)共感を覚えた。長編小説として成立させるために多くの部分について加筆修正を行ったとあったがその通りで、主人公の主義や主張はほとんどブレがなく一貫している。作中で彼の詩作へ向けられた評とそれに対する彼自身の分析が、そのまま本作へスライドする気がした。透徹した視線は他者のみならず己をも平等に貫く。その潔さに私たちは快い美しさを感じるのかもしれない。2023/12/17
u
5
耽読。詩的感興の呼び起こされる散文だった。第一章「海の見える町」はとくに。粉飾を免れた、素朴なことばがすっと心に波を立てる。感じやすい少年の心が、その感じやすさのままに叙述されている。詩人として出発した伊藤整ならではの小説技法だと思う。オクテなようでいて、秘かに自負と野心に燃えているところ、一級上の小林多喜二に対するライバル心、季節の変遷と結びついた女学生との逢瀬、詩の世界に生きながら、けっこう抜け目ないところ。一人の詩人であり作家の、少年から青年までの間の出来事、思考が端的に且つ詩情豊かに描かれている。2018/01/12
すし
2
故郷小樽でひとり詩作をする若者が詩壇の中心東京へと出て行く、たとえるなら詩人版『まんが道』。相手の詩を読むことで知り合い、あとから生身の人と会うという出会い方が現代のtwitterを介して知り合う文章の書き手とのそれと共通し、折々の心情を身近に感じた。もともと梶井基次郎からボードレールの散文詩「けしからぬ硝子屋」を聞かされてひどく感動するくだりが読みたくて読んだのだが、自意識過剰な「私」とそれを批判的に捉える「私」とが掛け合うように進んで少年時代の記述が、正直で読んでいて清々しかった。また読み返したい。2018/11/06
Mint_Choco
2
途中にでてくるりんご園の詩が好きでした。