内容説明
「労働者が何かを要求することは天皇に叛逆することだ、という思想が強まろうとしてきた時代」に、中野重治は区役所の戸籍係の文学青年に自身の鬱屈した夢を托し、汽車の缶焚きの男に熱い想いを込めて創作をした。一九三二年、重治は治安維持法違反で逮捕拘禁された。弾圧の戦時下を真摯に生きて抵抗した小説家の時代を超えていま深まる感銘。中篇小説の秀作二篇。
感想・レビュー
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yunomi
2
「空想家とシナリオ」は転向によって創作と思想の繋がりが断ち切られた後に、作家は何を書けば良いのか、どう書けば良いのかという自問自答をそのまま作品化している。その問い掛けは、著者の政治的立場を越えて、世界の全てを言葉に置き換えたいという、私達の根源的な欲望の表れでもあるのだ。2015/01/24
げんがっきそ
1
『空想家とシナリオ』を読むと「空即是色、色即是空」というものを思い出した。 『汽車の罐焚き』は、汽車の走る最中の描写がとても白熱して引き込まれてしまった。 この2篇には労働者や生活者が出てくるのが非常に気になる。中野重治がプロレタリア作家として、労働や生活にある「実質」の欠如を感じていたためではないだろうか。革命のために必要なのは実行であり、書くことや考えることの無力さはないだろうか。(しかし革命思想の元はマルクスとエンゲルスの書物だったようにも思うが)。2020/10/07
犬猫うさぎ
0
善六の驚いたのは、つぎつぎと主人公が変っていくのに、最初の氷たちのいきさつをどこまで行っても忘れないで、話の数を一つずつふやしながら、つぎからつぎへと最初へのさかのぼりを重ねて行く行き方であった。これが日本人ならば、いちいち元へもどらずに、つぎつぎに一つずつ進んで行くのではなかろうか。(「空想家とシナリオ」50頁)2025/04/10