内容説明
人間国宝や文化勲章に推挙されても応じることなく、一陶工として独自の陶芸美の世界を切り拓き、ついには焼き物の枠を超えた無私普遍の自在な造形世界に自らを燃焼させた河井寛次郎が、美しい物に隠れている背後のものを求めての歩みを詩情豊かな文章で記した、土と火への祈りの書ともいうべき名エッセイ。
目次
第1篇 物と作者
第2篇 窯場紀行
第3篇 町の景物
第4篇 いのちの窓
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
サンタマリア
38
ただ風景を読んでいた。河井寛次郎が見た風景を。 彼が民藝を愛した理由、このエッセイを残した理由が、時代や場所や彼がとりまかれたもののせいだと断言したいんだ。その感覚を僕も感じてみたいんだ。『誰が動いているのだこれこの手』一人きりで続けるという覚悟、一人ではないという確信。 『美を追わない仕事 仕事の後から追ってくる美』の精神。『この世このまま大調和』という考え。 なかなか難解で長い付き合いになったけど、これからも長い付き合いになると思っている。2024/06/01
きゅう
10
優れた陶芸家で、陶器以外にもさまざまな作品を創りだしてきた河井寛次郎。彼自身も表現者として明るい光を放っている人だけれども、それ以上に、彼はそれまで見過ごされてきたものたちを見つけ出し、照らし出してくれた人。 「みにくいもの見えないめくら 美しいものしか見えない眼」「美しいものしかない みにくいものはまよい」、世界ってほんとうはそうなんですよね。彼の言葉を通して、目に見えるものがすべてではないと改めて教えられる。2017/12/24
sakanarui2
9
無名の職人が作る各地の工芸品の美しさに着目し、柳宗悦、濱田庄司とともに、「民芸」を提唱した陶芸家、河井寛次郎のエッセイと詩。少しずつ大事に読んだ。 他に見たことのない独特の文章。饒舌だけど静かで、冷静なようで沸々と湧き上がる感じ。出会った人々や旅の記録、故郷である出雲の安来のこと。アーティストの目は解像度が高く、風景の描写が細やかで鮮やか。 なんというか、作品から想像した以上に物事にたいして真摯で誠実で、情熱的な人柄が感じられた。 京都の東山五条にある河井寛次郎記念館にて購入。2024/05/29
いっぽし
5
「見つくされたものなんか一つもない/しつくされたものなんか一つもない/見放題の可能/仕放題の可能/すべては仮定/すべては暫定/見るのだ/するのだ/きめるのだ」 この詩を何度も口の中で転がしています。見るのだ、するのだ、きめるのだ。2014/03/04
KiKi
4
今日の読了本はここ最近の KiKi の読書傾向からすると、ものすご~くゆっくりと、時間をたっぷりかけて味わった1冊でした。 これは、本当に良書だと思います。 書かれている内容も深いんだけど、それより何より、こんなに美しくも雄弁な日本語を久々に読んだような気がします。 それも日本人のDNAに浸み込んでいる何ものかに、静かに、それでいてストレートど真ん中を射ぬく勢いで訴えかけてくる言葉・・・・・。 そんな言葉に溢れた珠玉の随筆集だと思います。2010/10/07