内容説明
「海辺の光景」「抱擁家族」「沈黙」「星と月は天の穴」「夕べの雲」など戦後日本の小説をとおし、母と子のかかわりを分析。母子密着の日本型文化の中では“母”の崩壊なしに「成熟」はありえないと論じ、真の近代思想と日本社会の近代化の実相のずれを指摘した先駆的評論。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
54
「第三の新人」の作品の評論。戦後の男性作家の女性観について、明快に記してある。2016/10/19
ネギっ子gen
46
【『夏目漱石』以来の江藤の一貫した主題は、近代に根こそぎにされた日本の自己回復。明治以来の日本の知識人の闘いは「家長」になろうとしてなりそこねた歴史である】主に、上野千鶴子先生の解説を読みました。<男が「治者」を目指そうとするとき、女はもう「治者」を求めてはいない。男が「治者」になったとき、振り返ってみれば自分に従うものはだれひとりいなかった、という逆説が、「父」になり急ぐ男たちを待っている運命である。/「『治者』の不幸」を引き受けようという男の悲愴な覚悟は、そこではひとりよがりの喜劇に転落する>と――⇒2024/09/10
zirou1984
45
再読。やはりとてつもなく面白い。日本社会は契約ではなく「家族」こそが社会の土台となっているため、家族を描いた文学評論がそのまま社会批評として成立してしまうという二重性が本書の興味深さを引き上げている。「第三の新人」と言われた作家たちの作品を分析することで戦後日本における父(治者)の失墜と母(自然)の崩壊を明らかにし、それは解説で上野千鶴子が言うように「ふがいないふ息子」と「不機嫌な娘」を再生産する。初版は1967年だが、半世紀を越えた今のその批評は有効だと思う。それは日本の近代化そのものが持つ病だからだ。2014/10/12
yutaro sata
27
近代により、敗戦により、まはだかにされ、「個人」たることを宿命づけられた人々が、何に支えられ、みずから「かのように」を駆使し、治者になっていくのか。 漱石がこの近代と個人との問題に食らいつき、残した後を、我々はまた丁寧に、苦闘し、拾っていかなければならないと感じる。2022/10/30
梟をめぐる読書
24
同時代の小説を対象に近代以降「強い父」が不在となった母子密着型の日本社会の内側で「成熟」は如何にして可能か、を問うた画期的な名著。「成熟のために少年は<母>を見棄てねばならないが、代償としてその罪悪感と孤独を一生背負わねばならない」というテーゼは60年代に発信されたものとは信じがたく、その後の中上健次や『エヴァ』の出現、さらにそれらを経て<母>の代理としての美少女キャラがグロテスクに蔓延るようになった今の日本で<成熟>が如何に困難なものか、を思い知る。個々の作品に対する批評眼も確か。深く鋭い思考と射程。2015/04/03