内容説明
明治の黎明期に近代小説の先駆的な作品『浮雲』を書き、〈言文一致体〉を創出した文豪二葉亭四迷の四十六年の悲劇的な生涯を全十七章から成る緻密な文体で追う。最終章はロシアからの帰途の船上で客死する記述に終り、著者「あとがき」に、「これは彼の生活と時代を再現することを必ずしも目的としたのでなく、伝記の形をとった文学批評だ」とある。評伝文学の古典的名著。読売文学賞受賞。
目次
名古屋と松江
ロシア語とロシア文学
二つの偶然
浮雲の制作
浮雲の矛盾
浮雲の中絶
文学抛棄
官報局
結婚
片恋の出版
外国語学校教授
ハルビンから北京へ
日露戦争
其面影
平凡
戦後のロシアへ
ペテルスブルグ
二葉亭四迷略年譜
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
やいっち
56
たった今再読了。なかなかの傑作。中村光夫の二葉亭四迷への傾倒ぶりを実感。明治に於いて文学する言葉を生み出す先人の労苦。漱石や鴎外らに先んじる者の孤高の悲劇。自らに課し期待した理想の重み…は重圧でもあった。文学を捨てようにも周囲がそれを許さない。政治や社会、隣人、自然への関心。愛犬への愛情。心底最後に描きたかったのは愛犬との交情だったのかも。2025/02/17
やいっち
53
懐かしい。十数年前に読んだ。いま読んでる河上徹太郎の「日本のアウトサイダー」にて参照されてて、再会した。ひさびさ読めたらいいな。書庫にあるはず。
しゅん
11
坪内逍遥は穏健な改良家、二葉亭四迷は根っからの革命家であると中村光夫は対比する。明治期において、文学の形式を変えることも社会を変容させることも片輪では不十分だと認識する長谷川辰之助は、必然的に自らの小説に満足できない。家の生計に圧迫されつつ小説を断念し、語学や調整の仕事で才を発揮するも永続的な仕事とならず、自嘲的な文筆家となった末に念願のロシア滞在の中途で病に伏す。抽象的に図式化されているにもかかわらず評伝が安っぽくならずめっぽう面白いものとなるのは、テクストと実人生のズレを著者が強く意識しているからか。2024/03/10
やいっち
6
たった今再読了。なかなかの傑作。中村光夫の二葉亭四迷への傾倒ぶりを実感。明治に於いて文学する言葉を生み出す先人の労苦。漱石や鴎外らに先んじる者の孤高の悲劇。自らに課し期待した理想の重み…は重圧でもあった。文学を捨てようにも周囲がそれを許さない。政治や社会、隣人、自然への関心。愛犬への愛情。心底最後に描きたかったのは愛犬との交情だったのかも。2025/02/17
NEWJPB
3
中村光夫といえば、『風俗小説論』などで歯に衣着せぬ物言いが特徴的な批評家だが、この『二葉亭四迷伝』では、そうした毒舌も、二葉亭への愛情に満ちていて、それが、比類ない感動を呼び起こす。二葉亭を失敗した作家だと断じつつ、その失敗は時代の本質を体現しており、そこを見つめないと、到達できないステージがあると中村は述べる。確かに、これでもかと提示される二葉亭の愚直で無様な生き方は、失敗といえるのかもしれないけれども、「或る国の文化にとって本質的な問題は、めまぐるしい現象の変転のなかでも、そう簡単に消えない」ので、2013/10/28