内容説明
生みの母の出現に激しく揺れる少女の心を描く「二月」。病死した妹への鎮魂の賦「さくらの花」(芸術選奨受賞)。四国巡礼の途次入水した八世市川団蔵の死に、人生老残の哀しみを見る「一期一会」(読売文学賞・芸術院賞)。生涯にわたって志賀直哉を人生の師として仰ぎ精進をし、地味ながらもたおやかな文学精神を持した女流作家の処女短編「二月」と深い感銘の代表作、計八編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ソングライン
18
実母と3人の継母を持つ運命となった小説家の主人公、「光子」では幼きときに継母となり感染症で亡くなる2番目の継母が、「金の棺」では従妹の夫の自死、「さくらの花」では裕福な旅館の女将となった義妹の癌死が描かれます。また、作者の晩年に遭遇した市川団蔵の自死「一期一会」、永井荷風の孤独死「ひとり暮らし」についての短篇も含まれます。多くの人が長寿となり、人の死に居合わせることの少なくなった現在、複雑な人間関係の中で、多くの死を見届ける主人公の素直な感想と孤独であるも冷静な死生観に畏敬の念を抱く作品集です。2021/01/16
きゅー
10
私小説の色が濃い8篇ほどの物語、随筆集。ここに収められている網野の小説には彼女の実体験がほとんどそのまま追憶されているように見える。『一期一会/さくらの花』というタイトルからいわゆる女性らしい物語を想像していたが、いやいや無骨でざらついた手触りだ。生みの親、義母を含めた家族へのわだかまりに満ちた感情。母が苦しんでいるのを見て「私は悲しそうな表情をしなければならない」と自分に言い聞かせる少女の姿は、自意識に囚われている。そこには、さくらの花の持つ色艶やかさではなく、ただただ散りゆく花の無情が感じられた。2016/06/24
YO)))
7
広津桃子「石蕗の花―網野菊さんと私」を以前読んで気に入ったので,そこから辿って手に取った.幼時に生みの母と生き別れになって以来四人の母親を持ち,文通のみの付き合いだった男性と結婚して満州に渡り,そして離婚し,と,(時代もあるにせよ)相当にハードコアな人生を送ってきた自らのことを題材にしながら,ここまで客体視できるものなのか,と言うほど,色づけしない,抑えた筆致で書かれている.故に,老境の一人暮らしを「さびしい」と書かれてあるところなど,言葉の本来の意味において,本当にさびしい感じを受けて,さびしくなった.2012/10/03
meg
1
素晴らしかった。 出会えてよかった。一期一会。2022/11/30
AR読書記録
1
私は,多分に私小説の感があると思いながら読みました.そしてとても冷静に正直に出来事や感情と向かい合っている人だと思い,自分も似ているところが大いにあると思い,そしてちょっと嫌いです.自分の気持ちに正直すぎてデリカシーに欠ける部分がある.それは自分の嫌いな点でもあるのだけれど... うん,けっこう入り込みすぎて,小説としての感想を持ちにくくなってるみたい.2011/01/07