出版社内容情報
【内容紹介】
シベリヤ捕虜体験を経て、戦後の日本に帰還した作家は、戦場での生と死を見詰めると等質の同じ澄んだ眼線から街の隅に息づく庶民の1人ひとりの生きる姿を凝視する。平凡極まる無名の生活者、阿久正(あくただし)の中に、結晶の如く光る生の真実を淡々と語っていく「阿久正の話」、ある復員者の戦地回想「林の中の空地」他5篇を収録。『鶴』『シベリヤ物語』につぐ、長谷川四郎第3小説集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
国士舘大学そっくりおじさん・寺
67
いきなり下品な話だが、この文庫も古書価が高いので、BOOKOFFで見かけたらみんな買おうじゃないか!(゜o゜)\(-_-)。表題作『阿久正の話』のみ読んだ。この短篇の名前は少し前からチラチラ見かけていたが、それは村上春樹が褒めていたからだと遅ればせながら知る。しかし私は春樹読者ではないので先入観無しで読めて良かったと思う。戦後の日本の話だが、色んなシーンが心に引っ掛かり、色んな感想が山ほど浮かぶ。一言で言えば「愛しい」。阿久正夫妻を好きになってしまう。この短篇が好きな人と話がしたくなる。もう一度読もう。2020/03/14
ケイ
35
「若者のための短編小説案内」にて、村上春樹が表題作についてかなり解説していたので期待して他の短編も読んだのだが、今ひとつよくわからなかった。春樹氏の言うように、翻訳スタイルを身につけた、日本よりも中国やロシアの文学の影響を受け作家なのかもしれない。「阿久正」の話では、普通とは、小市民の幸せとは何かを考えさされた。魯迅の「阿Q正伝」をもう一度読んでみようと思う。2014/01/14
tom
18
村上春樹の「若い読者のための短編小説案内 」を読む。そこで取り上げられていたのがこの短編。2回読む。最初に読んだときは、それなりにしみじみとしたものを感じる。主人公は、職場では言われたことを着実にこなす。帰宅途中に書店を散歩。在宅してるときは、それなりに楽しそうに暮らす。主人公をいいなと思う。こういうキャラ、村上さんは気になるのかなとも思う。でも二回目に読んだときは、なにも感じることなくサラサラと読み終える。何やらつまらぬ男に思えてきた。この落差の大きさが不思議。喉に引っかかった小骨のような気分になる。2024/06/12
空虚
5
まるで死と折り合いをつけたかのような作中人物たちは、とても穏やかだ、波打つことを知らない著者の文体みたいに。つながりの見えない無数の断片群が矢のように降ってくる。上海、世界の外れ、三人称。それらはまるで世界の輪郭を形作らない。彼らは世界と摩擦することなく、だが確実に摩耗してゆく。そして終わりは唐突にやってくるのだ。日本文学におけるカフカ的文体の専売特許は小島信夫ということになっているけれど?著者の作品を呼んでいるとカフカのテクストを想起してしまう。とりわけ『判決』の唐突さ、取り返しのつかなさ、を。2015/09/15
もろろろ
2
ふっ、と消えてしまってもおかしくない世の中2010/05/23
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