内容説明
東京日本橋の地下鉄ストアで見つけた乾山の五枚の中皿。古道具屋で掘り出した光琳の肖像画。浜名湖畔の小川で、食器を洗っていた老婆から譲り受けた一枚の石皿。その近くの村の、農家の庭先にころがっていた平安朝の自然釉壺…。美しいものとの邂逅が、瑞々しく生々と描かれる名随筆二十六篇。読売文学賞受賞。
目次
かけら
掘出しということ
七つの壺
天神さん
寒暖の間に
美術好きの蜂
ハエ撃ち
杷枇と桜桃
暑中休暇
ふくろうと遊ぶ〔ほか〕
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
げんがっきそ
3
氏のたしかな眼識は「ささやか」という思想に支えられている。不思議なことに、人は誰かが価値をつけたものは容易に発見できるし、再評価する努力をしがちだ。それに慣れてゆくうちにありのままの物体を見ることが、与えられた「価値」を見ることに転倒し常態化する。そんな中で価値の定かでないものに自分で価値をつけるのは、果たしてささやかだろうか? 自然に近いからこそ美しいとする氏の自然への感受性はひたすらに与えられた価値を享受せんとする消費社会とは真逆の姿勢で、皮肉にも発掘の困難さが人々の社会への浸かり具合を露わにする。2022/01/19
AR読書記録
2
子どものときから土瓶のフタの美に打たれ、長じては野に埋もれた古の優品を見つけだしと、なにかもう俗界は超越した感性の世界に生きる人、みたいに思いそうだったけど、古美術品との向き合いかたが、ペットを愛玩するような、しかもお互いに愛情をぶつけあうことを求めるような濃いものでなく、控えめでほのかな交情という趣があるもので、なんだかとても親しみがもてた。器物にのみ愛情を感じる人かというと、ふとさしはさまれる亡き奥様への想いが偲ばれる文章にぐっときたりもする。エッセイ集としても良品。2014/04/01
コホン
0
青柳いずみこさんが孫娘とは、血は争えない、ということなのでしょうか。人が宝を呼ぶのか宝が人を呼ぶのか、こういうことって大なり小なりあると思います。好きだと集まってくるのかもしれない。2014/10/22
篠静
0
骨董の話も面白いが、日常のことも気取りなく、無邪気。ふくろうの話が特に。2011/07/01