内容説明
或る日突然変貌し、異常なまでに猛烈に働き出す男(「聖産業週間」)。会社を欠勤し自宅の庭の地中深く穴を掘り始める男(「穴と空」)。企業の枠を越え、生甲斐を見出そうとする男(「時間」)。高度成長時代に抗して、労働とは何かを問い失われてゆく〈生〉の手応を切実に希求する第一創作集。著者の校訂を経て「花を我等に」「赤い樹木」を加えた新版・六篇。芸術選奨新人賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
loanmeadime
5
6作の内、少し異彩を放つ"赤い樹木"に一番惹かれました。木立K子の寒さは万博開催のこのころから今にも続いているんじゃないでしょうか?・・・メキシコ五輪から大阪万博までの時代を思い出しながら読みました。2019/02/11
あむたろう
4
会社のKPIに従って仕事をしたほうが楽しいかもしれないとぼやいた私に友達から差し出された本。 最も実現したいものはいつも近いようで遠いところにあって、決して自分がそれを追い求めて人生を過ごしているわけではないという感覚。人生のフェーズごとに何かしらのゴールがとりあえず置かれていた時代(学生時代)がもう今はなく、だからこそ得られたはずの自由(今を生きる)をまったく無下にしている虚無感。仕事という最も時間を割いているはずのものに対する誠実性?のなさに対する自分への不満。 どれもこれもわかりすぎる。2024/12/04
久守洋
3
角川文庫版で読む。表題作の『時間』は、業務における空虚さを描いた単なる会社小説ではない。企業の中堅におさまっている「彼」は、かつてメーデー事件で被告となり判決を待つ三浦の裁判を傍聴する。しかし、そのとき「彼」は自分自身が「三浦」であったかも知れないという蓋然性を感じているのではないだろうか。今の「彼」が「彼」であるのは実は偶然に過ぎないのではないかと。60ページ程度の短編であるが、様々な要素が凝縮された逸品である。ただ、『時間』以外の作品はつまらないものが多い。2010/11/15
アンパン
0
図書館でたまたま見かけて借りた短編?集。「聖産業週間」という短編だけ読んだ。昭和7年生まれの作者のS43年の短編。高度成長期、24時間戦えますかというCMもバブルもまだ知らない時代、会社の机は灰色で男性社員が机でタバコを吸う時代。どんな時代で、どんな風に会社員は働いていたのかなどを知りたくて借りた。文体なのか言葉のチョイスなのか、今とはかなり違い、ポップさがないというか、学生紛争前後の頭でっかちな表現というか、なんかうるさい人の戯言というか、そんな感じだった。なんとなくその時代の空気を感じれた気がした。2021/02/12