内容説明
奇妙なユーモア溢れるアメリカ旅行記「走れトマホーク」。身辺私小説仕立ての「埋まる谷間」「ソウタと犬と」。中国の怪異小説家に材を取る「聊斎私異」など、多彩な題材と設定で構成されながら、一貫する微妙な諧調―漂泊者の哀しみ、えたいの知れない空白感。短編の名手の円熟した手腕が光る読売文学賞受賞作。表題作を含む9編を収録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
sakadonohito
14
短編集。ピンとくるものが無かったが解説まで読み終えたあと思い返してみると存外味わい深かったかもしれないと思い直した。戦前から戦後すぐあたりの時代を舞台にしているのでいろいろと古臭いところは否めないが漠然とした不安といった心情描写は現代にも通ずるものが無くもない。2022/09/18
giant_nobita
8
幼少期の繊細な心の動きを感覚的な描写で綴った「球の行方」と、就活失敗体験という珍しいモチーフを扱い朝井リョウの『何者』を思わせる「野の声」がよかった。しかし「木の上の生活」は「ゴリラ/テナガザル」という二分法が不徹底だし混乱している。「埋まる谷間」は近所に越してきたアイドルという題材やその書き方が軽薄で現実感がなく、花束の主は誰かという謎が予想通りに解消されてしまう展開に白けてしまった。「叩きつけて地の底へメリこましてやる」という言葉通りに飛び降り自殺する女が出てくる「テーブル・スピーチ」は恐ろしかった。2018/07/21
ハチアカデミー
8
C 今後、日本における高度成長期とは何だったのかと聞かれたら、「走れトマホーク」を読めと答えるだろう(そんな機会があるのかわからんが)。得体の知れない高揚感に包まれ、不安になるほどの自由に投げ込まれる。神抜きにした西洋の価値観が、その根拠を問うこと無しに、形だけ移植される。その結果、男も女も精神のバランスが崩れてゆく。「現代の喜多八やサンチョには、自分の主人の顔や存在そのものさえ、何処にいるのかいないのか、はっきりとは確かめ兼ねるのである」コントロール出来ない馬が、一斉に走り出すラストが印象深い。2012/04/11
雪丸 風人
6
スッキリしない男の話が多い印象。そんな中で際立っていたのは、初めての乗馬で手助けもないまま振り回される主人公を描いた『走れトマホーク』ですね。暴走する馬の躍動感がもの凄いのなんの。興味深かった小ネタは、馬は立ったまま眠るという話でした。近所に有名人が越してきたことで起こる騒動を描いた『埋まる谷間』も面白いですね。深く共感できたのは『聊斎私異』に出てくる「時代が落ち着いて社会全体の悩みのタネが軽くなると、どうしたって個人個人の悩みは大きく重く感じるようになる」という言葉でした。(対象年齢は15歳以上かな?)2020/10/25
geromichi
5
なるほど、居心地の悪さと不適応か、とひとりごちた。だから安岡章太郎の文章は、すっと入っていてくるのだと思う。2020/02/12
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