出版社内容情報
東野 圭吾[ヒガシノ ケイゴ]
著・文・その他
内容説明
9回裏二死満塁、春の選抜高校野球大会、開陽高校のエース須田武志は、最後に揺れて落ちる“魔球”を投げた。すべてはこの一球に込められていた…。捕手北岡明は大会後まもなく、愛犬と共に刺殺体で発見された。野球部の部員たちは疑心暗鬼に駆られた。高校生活最後の暗転と永遠の純情を描いた青春推理。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
556
東野圭吾の比較的初期の作品。したがって練達は望めないものの、小説を書こうとする新鮮な意欲が強く感じられる。後半の「約束」あたりから終曲に向けて、ある種の悲壮感を伴いながら、物語は一挙に収斂してゆく。そして、小説全体を貫流するのは武志の孤独だ。勇樹は言う「兄貴は…いつも一人だった」。ただ、瑕瑾もまたなしとはしない。例えば、物語の前半において2つ目の殺人事件が起こった時、周囲はあまりにも当たり前のことのように受け止めており、リアリティの欠如は否めない。また、武志の過去は作りこみ過ぎだろう。2021/04/02
Tetchy
351
実に哀しい物語であった。この作品の中心となる謎は、二つの殺人事件の謎でもなく、愉快犯とも云うべき東西電機での爆破未遂事件と社長誘拐事件の謎でもなく、題名となった“魔球”の謎、でもない。天才投手と云われた須田武志そのものの謎である。東野氏はこの男に武士の魂を託し、“武士の心”という意味を込めて“武志”という名にしたに違いない。そして題名。人が打てない悪魔のような変化を伴うから“魔球”と呼ばれるのが一般的だが、本作にはもう1つの意味が隠されている。これはそれぞれこの本を読んで確認して欲しい。2009/12/13
zero1
341
初期の青春ミステリーを読む。舞台は昭和39年。選抜で甲子園に出た天才投手、須田。彼が開陽高校でバッテリーを組む捕手の北岡が殺された。もうひとつの事件が東西電機に仕掛けられた爆弾。この二つの事件はどうつながるのか?題名の魔球より貧しい家で育った須田の苦悩に共感。もし自分が登場人物だったらどうしたか?野球の表現や捜査手法、人が持つ恨みなど粗さが目立つものの、有名作家の成り立ちを知るには格好の作品。東野は後に「新参者」など緻密なミステリーを書くが、こうした作品があればこそ、今の東野がある。2020/03/01
Kircheis
332
★★★★☆ 東野圭吾がデビューの前年に書いた作品を手直しした物らしい。 内容的には爆破未遂事件と殺人事件が絡み合いながら進んでいく。 天才ピッチャー須田武志のカリスマ性が読者にも伝わってきて、そんな人物描写ができる東野圭吾の表現者としての能力の高さに脱帽。 オチは予想していた範囲内に収まってしまったのだが、『魔球は青春を野球に捧げた事に対する神様のプレゼント』てフレーズが哀しくもあり晴れやかでもありでなんか胸に沁みた。2019/01/20
ノンケ女医長
254
魔球を投げられる、稀有な才能を持つ、高校生の須田武志。彼の生育環境は複雑極まりなかった。自分の父親に「あんたのことなんか信用できるわけないじゃないか」と、面と向かって明確に拒絶した。本当は、強い無念さをぶつけたかったはずなのに。新会社設立という多忙などを言い訳に、浮気をした中条健一の身勝手な行動で、多くの人たちが不幸になっていく。薄幸な境遇で育ってしまった武志の人生と、その最期について、健一は今後どう向き合い、贖罪を重ねるつもりなのだろうか。その覚悟すら、本当にあるのか大いに疑問でもあった。2023/02/26