出版社内容情報
遠藤 周作[エンドウ シュウサク]
著・文・その他
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
71
その意味を分からぬままイエスは人のために犠牲になったという詩を口ずさむ子供が出て来ます。地上のどこかの強い怒りや不安を抑えるためにはだれかの犠牲が必要でした。理性を失くした人間の愚かしい行為を上の方から眺める目線は神目線なのでしょう。神の光が射す医師の男性だけが、ただひとり正しい判断を主張しますが、誰も聞く耳を持ちません。そして、彼すらも「仕方ない」とあきらめてしまいます。聖書のどこかの一説を江戸時代や近現代に置き換えた短編集です。従軍司祭の苦しい言い訳、正義なら殺してもよい。汝殺すなかれ。ってなによ。2025/01/07
優希
47
短編集ながら重くのしかかるものがありました。人の弱さや劣等感、人種差別、戦争と宗教といった目を逸らしたいところに焦点を当てているからでしょう。誰もが抱く葛藤や躊躇いを淡々とした文章で紡ぎ出すのは周作せねしならではだと思いました。遠藤文学の軌跡を集約しており、独自の切支丹文学の色彩が見えるように感じます。2025/03/26
優希
45
独自の切支丹文学の色彩が見える短編集でした。純文学としても興味深い作品ばかりです。遠藤文学の軌跡を見ることができました。短編だからか、深みの余韻に浸る作品ばかりです。2024/02/27
活字の旅遊人
40
表題作は、『女の一生』『沈黙』の礎的な作品なのですね。小説の作り方、膨らませ方を垣間見ることができる。いや、そんな気がします。後ろの作品群には、『悲しみの歌』のガストンさんのような人物も登場しているし。これらはフランス留学中の話や病気療養の話を中心に据えつつも、やはり西欧に敗北した国における、自身を含めた救われない思いを抱く人間をしっかり描いたものだと思った。その中で「肉親再会」が特に印象深い。主人公の妹に対する複雑で様々な感情が迫ってくる。実際僕に妹はいないのだが。ん、遠藤周作にもいないのでは? 2021/08/04
あーびん
31
浦上四番崩れを題材に、『沈黙』『女の一生・第一部』と共通するテーマの表題作。短編ながら『沈黙』のキチジロー的な人間の弱さや信仰における赦しを描いており、心がえぐられる。また、「コウリッジ館」「異郷の友」「肉親再会」など筆者の渡欧生活で感じた人種差別やカルチャーショックの影響がみられる話も多い。常に信仰の不条理について自分に、神に問うている姿は遠藤周作作品の本質であり魅力でもある。2020/05/14
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