内容説明
ギリシア語で〈どこにもない理想郷〉を意味するトマス・モアの造語〈ユートピア〉。プラトンの『国家』に始まるその古典的淵源から説き起こし、十九世紀の社会主義的ユートピア志向を経て、現代のSF化された未来論に至るユートピア思想の変遷を辿る。さまざまな楽園伝説や終末論、諷刺・幻想文学などの隣接領域と対比しながら、比較文化学の視点からユートピア像の多面的な姿を考慮した画期的力作。
目次
序章 ユートピアとは何か
第1章 ユートピアの古典的淵源
第2章 中世からルネッサンスへ
第3章 フランス革命まで
第4章 十九世紀
第5章 現代のユートピア
第6章 ユートピアと東洋
終章 ユートピア的幻想
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
シャル
5
いわゆるユートピア文学のとその背景にある時代の流れと移り変わりを紐解き、時代ごとのユートピア文学に描かれる世界と思想を分析していく一冊。ユートピアが見せる物は現在の辛い世界のアベコベの世界であるとの意見が印象的。ただ、元となった本が1971年、再販であるこの本自体も1993年出版とかなり古いこともあり、現代に近付くにつれて逆に古さを感じてしまうのはやむを得ないところか。インターネットによってさらに空間的なつながりと統合を得て、肥大化した現代の世界から見えるユートピア=どこにも無い場所はどんな世界だろう。2012/10/15
アルゴス
1
ユートピア小説論としてはかなり古典的な解説書。古代から多数のユートピア小説が書かれているが、最近ではディストピアものが主流である。理想郷を夢見る可能性がすっかりと薄れてきているからだろう。ユートピア小説の多くについては梗概にとどまる。もっと詳しい解説書が望ましい。ユートピア小説もディストピア小説も、わたしたちの生きにくさを証言しているからだ。異世界もののコミックやアニメも実際にはディストピア物語であることが多いのだが。2017/12/03
ぽてと
0
未だに陳腐なユートピアがそこらじゅうにはびこっているが、そんな言葉の用法を整理し、歴史を辿っていくというこの本は小品ながら大変濃密な内容となっている。どんなユートピアとはまず現実の否定があり、時代を映す鏡とならなければならない。2016/05/08
void
0
【★★★★☆】よく纏まってます。はしがきにあるように、「ユートピア」の概念定義、その像の多面性の提示、文学史的特徴づけを目的とし、古代から80's終わりまで整理・分析が成されている。モアの著書しか読んだことがなくてきとーに使っていた・生半可に理解していたが、現実を照射し更に「完全」を逆照射することでの批判的意義や、理想的な「共同体」を示すことが主で、そこに選ばれない個人の除外、(述べられてないが、「メタ・ユートピア」という個人主義に立脚したものなど)色々と考えさせられます。ああ、庭園築きたい。2011/10/27
びーちゃん
0
ユートピアに関する思想,小説の歴史をまとめたもの。その時代が理想とする社会は様々で,その時代の不満や問題を明らかにしている。今日におけるユートピアとはなんだろうか。評価42011/03/09
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- 月のぶどう ポプラ文庫