出版社内容情報
【内容紹介】
この天福本「伊勢物語」は家集でも日記でもない歌物語である。が、百に余る歌物語を書き並べる時、それらを綴り合わせる一筋の糸を、ある男の生涯の流れに求めた。したがって上巻には青年期の純情な一途の思慕と流浪のロマンがあった。下巻としておさめた所に見られるのは、人生経験からにじむ思いやりの中で屈折する熱い情と、年月の中で衰えて行く生命の滅びの歌の哀感である。生きる日をかさねるにつれて長く読者の共感を誘うと思う。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
佐島楓
49
昔から男性のほうがロマンチストで、女性がリアリストだという点はあまり変わっていないのかもしれない。2016/05/03
ドウ
6
主人公は後半生に入り、色恋以外の世事に揉まれ、少しずつ老いていく。その哀愁や人生を振り返っての感慨が歌に詠みこまれるようになり、上巻の時に感じた不統一は、下巻に入って多少のブレはありながらも確かに一人の男の人生として収束し、しみじみとした余韻を後に残してくれる(雲隠とのみ書いて死を描かなかった源氏との違いも興味深い)。付録的に、異本由来の節も丁寧な解説と共に収録されていて詳しい。2020/03/20
ヒラオカキミ茸
3
在原業平は段数と同じく125人いるに違いない。これが全員同一人物だなんてそんな馬鹿な!125回輪廻転生してても良いけどそれだと伊勢物語中で6000年以上時が流れてる計算になるから猶笑える。「名も無い歌の上手なのっぺらぼう」の結晶体が「昔、男ありけり」と呼ばれる業平なのかも。どちらにせよ、私が教科書やなんかで知っている歴史上の在原業平は関係ないはず。2013/07/24
うぴー
2
筑摩の祭りを題材とした歌は、感想にも書きづらいような祭り自体の特殊な性格も相まって特に印象に残った。万葉集のような歌集に収録されている歌に伊勢物語独自のストーリーを肉付けしているものも多く、歌集自体にも興味が湧いた。2022/07/20
けろ
1
初冠から「つひにゆく みちとはかねてききしかど 昨日今日とは 思はざりしを」まで。一人の男が終焉を迎える。様々な女と心を交わし、遭い別れ、友と友情をあたため、権力の陰ひなたに涙した男がついに消えていく。昔、男 在原業平は愛すべき人であった。2017/11/28