出版社内容情報
【内容紹介】
家族における人間関係は一様なものではない。一人の異性を選択することによって成立する夫婦というヨコの関係、血のつながりで運命づけられた親子というタテの関係、さらに兄弟姉妹、親戚、こうした複雑さから、思いがけない対立や葛藤が生じてくる。家庭内暴力、離婚……。家族のあり方は、われわれの生きていく基盤として今、根本から問いなおされなければならない。本書は、日本社会の特質を踏まえつつ、母・父・子の深層の関係を追求、われわれが自立した人間として個性的に生きる場としての家族のあり方を模索する。
危険思想――夫婦の絆は親子の絆と十字に切り結ぶものである。新しい結合は、古いものの切断を要請する。若い二人が結ばれるとき、それは当然ながら、それぞれの親子関係の絆を切り離そうとするものである。一度切り離された絆は、各人の努力によって新しい絆へとつくりかえて行かねばならない。この切断の痛みに耐え、新しい絆の再製への努力をわかち合うことこそ、愛と呼べることではないだろうか。それは多くの人の苦しみと痛みの体験を必要とするものである。このような努力を前提とせず、ただ二人が結ばれたいとのみ願うのは、愛などというよりも「のぼせ」とでも呼んでおく方が妥当であろう。他の何事をしてもいいが、「愛する二人が結ばれると幸福になる」という危険思想にだけはかぶれないようにして欲しい、と願いたくなってくるのである。――本書より
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
morinokazedayori
63
★★★★★物凄く面白かった。問題のない家族はない。夫婦としての横の繋がり、両親との縦の繋がり、子供との縦の繋がり、叔父叔母、甥姪との斜めの繋がり、そして兄弟関係。核家族や未婚離婚の増加により、個人の自己実現を求める生き方と、家族の中での力動バランスが、それぞれ劇的な変化の渦中にある昨今、自分はどう生きていきたいか、深く考えさせられた。2017/02/16
燃えつきた棒
28
目次を見ただけでも、「5父と息子」、「6母と娘」、「7父と娘」、「8きょうだい」など興味を惹く表題が並んでいるが、読んでいてなぜかあまり響てこない。 著者が、あとがきで、『最初の予定では、社会学や文化人類学の興味深い研究などを援用して、家族のことをもっと広い視野にたって論じるつもりであったが、』と書いていたが、そうしてくれた方が、僕には興味深く読めたかもしれない。 1980年の出版なので、最新の研究の成果などを知りたい方には、やや古さを感じさせてしまうかも知れない。 2018/12/19
佐島楓
21
河合先生のご著書の中で繰り返し述べられている西洋社会との対比など、改めて読むと非常に腑に落ちるところがあった。親が成熟した存在とは限らないなど。あとひとつふたつ発見があった。2013/02/04
テツ
18
家族縁が薄い。育ててくれた祖母は亡くなり妹は嫁いだ。親はそもそもいない。なのでその形がどんなものであろうと家族という存在をわりと羨ましく感じるのだけれど、実際にはどうしようもないわだかまりを抱えていたりするんだろうな。単なる共同生活の場として以上の幻想を抱いてしまい、個々がそれに溺れることによって家族間の人間関係も破綻していくらしい。維持することに怠惰になってはならないというのは他の人間関係と同じだよな。せっかく手にした素晴らしい場所なんだから大切にしなよ。2023/12/06
yutaro sata
16
家族の既成モデルも失われ、古いものも新しいものもだめ。なのでこれからはたとえ良い親、良い子どもでも、実存を賭けた戦いというのは激しくならざるをえないと。ここまで壊れたらもはやその先はひとりひとりが何を創造できるかにかかっている。河合さんはそういうテーマを一貫して扱っているように思う。2022/05/07