出版社内容情報
【内容紹介】
人間が死というものに直面したとき、どんなに心身がたぎり立ち、猛り狂うものか──すさまじいガンとの格闘、そしてその克服と昇華……言語を絶する生命飢餓状態に身をおいた一宗教学者が死を語りつつしかも、生きることの尊さを教える英知と勇気の稀有な生死観。第18回毎日出版文化賞受賞。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
Speyside
23
宗教学者である著者が、癌の告知後10年に及ぶ闘病生活の中で、自らに迫りくる「死」について考察し、発表した文章や講演録をまとめたもの。キリスト教家庭に生まれたが、神の存在や死後の世界がどうしても信じられず信仰を捨てたという出自が共通するためか、著者の死生観には共感できた。そんな著者も、死に直面すると生命飢餓状態に陥り、死への恐怖と生への執着に身動きが取れなくなったと言う。「死には実体がない」「ただ単に、実体である生命がなくなるというだけ」「何よりも大切なことは、この与えられた人生を、どうよく生きるか」然り。2020/11/17
はふ
9
人は死に直面した時どのようなことを思い、またどのように死や生に対して向き合うのか、著者が実際に癌を発症し、その戦い続けた10年間の生々しい体験や著者の死や生に対する考えが記された本。著者が四苦八苦し考え抜いた思想はよりリアリティーのあるものであった。2018/09/06
モリー
9
宗教学者である著者は、癌に侵されるが、十年間に及ぶ闘病期間中も研究活動を続け、大学の図書館長としての職責も全うする。家ではユーモアをふりまき、妻からは「そばにいますと、ぽかぽかと春の太陽が照り注いでいるという感じの人」と言わしめる人柄である。癌と診断され余命半年と宣告されてからの著者は大手術を何度も繰り返し受け、運よくこの世に生を繋ぎ止めるが、現実に差し迫った死に直面し続けた著者が学者として冷静に死を見つめる心を分析し、死とは何か?生きるとは何か?という問題に正面から向き合い続けた強さに心打たれた。2018/05/04
ちくわ
7
ガンにより余命が宣告された著者が、「死」について向き合い、格闘した様子が描かれる。よく、宗教的な観点や哲学的な観点から、「死」とは何か、ということが論じられる。しかし、本書では、そういった観念的な視点からではなく、実際に死に直面した著者の心の動きがありのままに描かれている。実際、「死」というものに向き合わざるを得なくなった場合、そのような現実を受け入れることはできるだろうか。そのような現実から逃げずに、受け止めて、その心の動きを描いているだけでも本書の価値はすごいと思う。久々に心を突き動かされた。2018/07/16
田蛙澄
6
宗教学者の岸本英夫のガン闘病記だが、たんなる感傷的な書ではないところが流石だ。死の恐怖を肉体的苦痛と無の恐怖に分け、近代的知識人として宗教の来世観を信じることなしに如何に死に対するかという問いに対して、生甲斐となる仕事に打ち込み、死を別れとして捉えるという答えを出す。個的な霊魂の存在は否定しつつ、この世への別れを宇宙の生命に帰ると表現する点がある種の宗教性があって面白い。死の恐怖と近代合理主義者としての克服の仕方という点でとても共感できる部分が多かったのでとても楽しかった。2015/05/17




