内容説明
離婚したイーサンにとって、三歳の息子ネイトは世界でいちばん大切な存在だった。あの凍てつく冬の朝までは…その朝、ネイトを連れて森へ向かったイーサンは美しい大鹿を見かけると、眠っている息子を車に残し、森のなかへ足を踏みいれた。どんなに素晴らしい鹿だったか息子に話そう、と思いながら。が、その数分間にネイトは行方をくらませてしまった。小さな町の住民たちが結集して必死の捜索を行なうが、翌日、ネイトは死体となって発見された。いなくなった父親を懸命に探した涙の痕を顔に残したままで。希望を失ったイーサンの姿に、町の住人たちはそれぞれの複雑な過去を投影しながら手を差しのべるが…ひとつの死をもとに変わっていく人々の姿と絆を繊細な筆致で描く贖罪の物語。
著者等紹介
シュウォーツ,レスリー[シュウォーツ,レスリー][Schwartz,Leslie]
ジェイムズ・ジョーンズ文学協会の最優秀処女長篇賞を受賞したJumping the Greenの他、数々の文芸誌で短篇を発表。現在は執筆活動の他、カリフォルニア州立大学の大学教育公開プログラムで創作講座をもつなど、多彩な活動を行なっている。ロサンジェルス在住
石田善彦[イシダヨシヒコ]
早稲田大学法学部卒。英米文学翻訳家
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感想・レビュー
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ケロリーヌ@ベルばら同盟
57
冬の嵐が近づく夜明け、若い父親と幼い息子を悲劇が襲い、小さな町に激震が走る。父子に所縁の人々の視点で語られる極く短い章が、糸に通したビーズのように繫がり、物語を紡ぐ。冬の空に美しく輝く北極星、三歳の誕生日を迎えたばかりのかけがえのない愛しい息子。ふとした油断から取り返しのつかない過ちを犯し、非情な報いを受けたイーサンは、社会にも裁かれる。父子の悲劇に心を痛め、自身の過去と今に向き合う人々。様々な思いが交錯する中、「過失による犯罪」の罪に問われたイーサンは…。心が痛む物語だが、美しい場景描写に救われた。2021/08/19
キムチ
32
正直、読破するには呻吟の展開だった。日本と欧米の宗教素地の大きな異なりはやすやすとは越えさせてくれない。カリフォルニアの人口300人余りの小さな町で事件は起きた。イーサンが男手ひとつで育てている3歳の息子ネイト。わずかの時間に失踪してしまった。翌日死体となって発見されたことから町中に小さな波紋が広がっていく。装丁そのままの静謐な世界、淡々とさまざまな男女の内奥が綴られていく。レスビアン、アル中等閉ざされていた生活はゆっくりと陽が当たっていく。宗教に懐疑心を抱き苦しんでいた判事にもかすかな光が。2015/06/22