出版社内容情報
もし煙草を吸えたなら今あなたから火を借りられた揺れやまぬ火を「この作者は、明らかに凄みを増している。このような表現者がいることを、同い年の作家として心強く思う。」中村文則?2011年第1歌集『あの日の海』によって注目を集めた著者の第2歌集。
染野 太朗[ソメノ タロウ]
1977年茨城県生まれ。埼玉県に育つ。2011年『あの日の海』刊行。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アマニョッキ
48
近所の小さな図書館でのビブリオバトルチャンプ本。バトラーさんも俳人さんだそうで、自分にはない目線が染野氏にはあると絶賛されてありました。自由律で奏でられる俳句たちは散文のようで、倦怠でもあり、狂気でもあり、愛でもあった気がします。「父の揚げた茗荷の天麩羅さくさくと旨しも父よ長生きするな」「霧雨につめたく濡れてポスターに山本太郎のきれいなおでこ」「何もしなかった一年だった後悔ばかりだった死ねと日誌にあり」「綿棒を耳に挿し入れ「ご」と「芳」を消しつつ結婚式には出ない」2018/06/21
太田青磁
19
教育に金をかけろと父はその父に言われてそれを守りき・紫陽花の毬の重みをなお増して雨 少しずつ妻を消しゆく・ドトールの三十分に聞きていつ君の娘の夏の予定を・バスが出るゆっくりとまた右折する感情は理性を強くする・まぶた二枚君にあずけて苦しきを千鳥ヶ淵の桜満開・たまにとても恥ずかしくなり教室の後ろに行って音読はする・Bボタンぎゅっと押したる感触のふいに戻り来 泣けなかったな・もし煙草を吸えたなら今あなたから火を借りられた揺れやまぬ火を・西日まったく射さざる部屋に並べたる偏差値表と成績票あわれ2017/01/14
hakootoko
6
●コーヒーのグラスを覆う水滴の海の記憶に指は冷えたり ●ぐいぐいと引っ張るのだが掃除機がこっちにこない これは孤独だ2023/07/05
すずき
3
疲れている時に読んだのでまともな感想はない。第1歌集の『あの日の海』は買おうかと思っていたうちに絶版になっていて未読だが、昔の印象よりもだいぶ生活詩的な印象が増した。本来昔の歌風の方が好みなのだが疲れていたのでスルーして読了。当初NHK短歌の時の20代後半から30代前半くらいのイメージで読んでいたのだが思いのほか時の流れは早い。耳なし芳一と掛けた綿棒と結婚式の招待状の歌は膝を打った。2020/05/29
yumicomachi
3
なぜ『人魚』なのか、人魚がなにを象徴しているのか、「人魚」と題された連作を読んでもわからなかったが、生きることのやるせなさがひしひしと伝わってきて、中村文則による帯文にあるように「凄み」のある歌集であった。〈種をはずし皮をはがしてアボカドを切る感情はつねに正しい〉2017/02/06