内容説明
ついえてゆく愛、さざなみたつ心―。とめどなく寄せては返す想いに目をこらし、愛の蜜から毒までをあまさず舐めつくしたうつろいの日々の物語。
著者等紹介
石田千[イシダセン]
1968年福島県生まれ、東京育ち。國學院大學文学部卒業。2001年、「大踏切書店のこと」で第一回古本小説大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nico🐬波待ち中
101
一つの恋が終わった時、人はこんなにも荒れ狂うものなのだろうか。不器用で意地っ張りの恋。とにかく苦い。もっと素直になれればいいのだけれど、なかなかそうもいかないらしい。恋しい人を追いかけようと手を伸ばしても思うように相手の心は掴めない。想えば想うほど距離はどんどん離れ、道に迷い深みにはまる。そして別れた後の引き摺り方がこれまた凄まじい。けれど悲しみの底が見えたらきっと大丈夫。周囲の人達の優しさが身にしみる。詩のような静かな美しい文章が読み手の心を激しく抉るような連作短編。2018/03/13
新地学@児童書病発動中
91
傑作。プロットは分かりづらく、主人公の恋愛がうまくいかなくなり、それで深い傷を負ったことがおぼろげに分かるだけだった。主語がない文章が印象的。主人公は自分の存在を殺して、まわりの事物と静かな交感をするためだけに生きているように感じるところが多い。「わたし」を殺すことで、物や自然が「わたし」の中心に入り込んで、「わたし」を内側から変えていく。その物や自然を描く石田さんの筆は冴えており、美しい。読み手の感覚さえも変えていく力を持っている。彼女のほっこりとしたエッセイとは違う内容で驚いたが、良い小説だった。 2013/12/10
だまだまこ
51
かなしみの只中にいる主人公の、夢と現実があいまいになっているような、そんな時にだけ見える世界の見え方や心のたゆたう様子が綴られている作品。小説だけど、抽象的な文章が多く物語の筋はぼんやりとしか見えてこなくて、詩のような印象。難しいことばではないのに飲み込むのに時間がかかったのは、さらっと語られる言葉の重みを受け止められるほど悲しみの底まで潜れなかったからかもしれない。出会ったことのない言葉の使い方が多くて、ことばという芸術に触れた気がした。でも今の私にはちょっと難しすぎた。またいつか再読したい。2018/10/17
るんるん
30
若いひとの煩悶も老いたひとの苦しみも大差ないのかもしれない。弱りゆく魂を抱えるとき、視点や手だてをめぐらせあらがう知恵は、いくつかの峠をこえる救いになるのだろうか。心の泉が氾濫する前に、愛のしずくを差し出し遠い泉へ届けられるだろうか。感謝や尊敬の念は、はすかいに放っていなかっただろうか。すべての感情をつめこんだ朽ちたこころの始末は生きているうちに叶えたい。考えさせられました。2014/11/02
かっぱ
24
図書館本。詩のような文章で、繋がりがあるようで、ないような、不思議な感覚に捕らわれました。あらためて石田さんって繊細な感覚の持ち主なのだと感じた反面、実は心の奥底に燃えるような強い感情を持った人で、それを柔らかな言葉で包み隠し、決して、他人を傷つけまいと努力している人のような気がしました。この世の中を生き抜くには、決して、無邪気な善人でばかりはいられないという悲しみのようなものが伝わってきました。2014/04/14