出版社内容情報
身一つで大坂に流れてきて、一代で財を築いた商人、杵乃字屋剛右衛門の一人娘に縁談が舞い込んだ。相手は尾張の城島屋という大店の次男坊。決まれば杵乃字屋に婿入りすることになる。縁談を進めるか否か悩む剛右衛門に、大番頭の儀助は、城島屋は悪辣な手段で乗っ取りを繰り返してきた店だと諫言する。それを聞いた剛右衛門が下した結論とは……!(「桂男」)
収録作品は、「桂男」「遺言幽霊 水乞幽霊」「鍛冶が嬶」「夜楽屋」「溝出」「豆狸」+書き下ろし「野狐」の7編。
第5作目の主役は、シリーズお馴染みのキャラクターで、又市の悪友・林蔵。大坂を舞台に、明確な悪意ではなく、それと知れず病んだ心が引き起こしてしまうが故に恐ろしい事件を描く。生きものであるが故の人間たちが抱える傷みの深さ、やるせなさと、林蔵の心づくしの憑きもの落としが胸を打つ。
内容説明
上方には上方の仕掛けあり。「これで終いの金比羅さんやで」巷説シリーズ、新機軸の第五弾。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
優希
103
関西が舞台なせいか、妖とは違った雰囲気が感じられました。どちらかと言えば惑わすものたちが巷にあふれていると言えますね。関西らしく、一筋縄ではいかない因縁話もカラッと受け止めてしまうノリがあると思います。不思議な仕掛けも江戸の闇とは異なり合理的で明るく描いている印象を受けました。今までのシリーズとは正反対の要素が多かった気がします。2017/07/18
財布にジャック
92
ついについに完結してしまったのですね?京極さんが気が変わって続きを書いてくれないかなと祈りたいです。どの話も甲乙つけがたいですが、やっぱり最後のオールスター総出演はファンにとっては嬉しい書き下ろしでした。このシリーズ本当に本当に楽しませていただいたので、ここを見ているまだ未読の方の一人でも多くにオススメしたい気持ちで一杯です。2010/08/12
ちはや@灯れ松明の火
81
西の町、巷に蠢く妖怪変化の百物語、今宵も語り聞かせるは靄船の二つ名を持つ小悪党。行き方も知れぬ靄船に乗せられ此岸を発てば、忽ち現は夢の彼方に掻き消える、否、夢が現に為り変わる。疑う心が鬼を生むのならば、押し込めた心の闇は積り集い溜り凝りて怪異を生む。欲得が呼び覚ます罪の痕、人の道を踏み越えた悪意の嗤い、歪んだ愛の果ての狂気、二度と戻らぬ過去への悔い。げに恐ろしきは人の業、そして断ち切る仕掛けを施すのもまた人の為せる業。『これにて終いの金比羅さんや』、けれど、人の世がある限り怪異の潰えることはない。2010/08/30
たかゆき
67
再読。社会では己を善人と思わねば立ち行かない。我は悪人と嘯く者も己の善意を確信した上の嘯きだろう。殆ど者は誰も己を真に悪人と考えない。だが善人にも悪心はある、悪意も過去の悪行もある。一つもないという者も又いないだろう。林蔵は善悪の真ん中で揺れる者にどちらかへ振り切るよう選ばせる。本来振り切るなど有り得ない事柄を強引に本人に選ばせる。その林蔵の卑怯さは彼の過去の罪ゆえの弱気な卑怯さだ。自身が善悪の彼岸でどの道も選び得ない事へのある種八つ当たりだ。そんな彼も最後の最後にどちらかの道を選んだのだろう。宮迫博之2016/12/02
よむよむ
64
仕掛けも仕掛けたり、一文字一家(?) 「悩みを消す、罪を消す、昔を消す、人を消す、国を消す」ことを裏生業とする怪しげな人々が、哀しくも恐ろしい物語を紡ぎだす・・・ 又さんもちゃんと出てきてうれしいです。『鍛冶が嬶』でぞ~っとし、『豆狸』で泣きました。2010/11/01