内容説明
1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになるのだが…。呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない―。青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。
著者等紹介
道尾秀介[ミチオシュウスケ]
1975年東京生まれ。2004年『背の眼』で第5回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、同作でデビュー。05年『向日葵の咲かない夏』で注目を集める。07年『シャドウ』で第7回本格ミステリ大賞、09年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞受賞。デビューからわずか5年ながら、ミステリー・ホラー・文芸など、ジャンルの壁を打ち破る大躍進を続け、いま最も注目される作家(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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がらは℃
153
些細な嘘や隠し事が、蛇のように繋がり悲劇を生む。それが自分のためだけの嘘や隠し事ならば何かを傷つけることにしかならない。誰かのための嘘や隠し事ならば、誰かの傷をほんの少しだが癒すかもしれない。そのほんの少しが解るようになることが大人になるということなのかなあ。2010/04/04
財布にジャック
141
どちらかというと暗くて重いテーマなので好きとは言い難い内容です。しかし、ストーリーが好きか嫌いかは別として、私は道尾さんの書く文章が、大好きなんだと今回程実感させられたことはありません。何が嘘で、何が真実なのか?読者の心を弄びかき乱す、かなり大人向けのミステリーです。余談ですが、スノードームがすごく欲しくなりました。2011/03/30
れいぽ
124
たとえば何度かスノードームをひっくり返したとして、いつでも同じように雪が降るとは限らない。真実も、過去という名の個人の記憶にしまわれたとき、人数分だけ違うラベルが貼られるのかもしれない。道尾さんはミスリードの名手なので警戒しながら読み進めたが今回は一本背負い的などんでん返しはなかった。嘘+嘘=真実 真実ニアリーイコール現実。優しい嘘が球体を満たし、もろいガラスドームは家庭というシェルターになる。ナオと智子さんは口裏を合わせたのかな、とちょっと思ったり。2010/08/19
nyanco
123
―呑み込んだ嘘は、一生吐き出すことは出来ない─。相手を思いやり、ついた嘘、その嘘が次の事件を生みだす。どれが嘘でどれが真実なのか…。読者は最後まで翻弄され続ける…。いつものように騙されるものか、これが伏線か…と思いながら読んだので肩すかしをくらい、もやもや~が残ります。今回は敢えてミステリー以外の作品として書かれたようです。雰囲気はとても良いし、構成もやっぱり巧い。でも、やっぱり道尾さんには、「あ~、騙された~!」とスカッと騙していただきたいです。2009/12/03
しろいるか
119
『シャドウ』『龍神の雨』にも共通する鬱々とした世界観の作品。道尾作品には珍しく叙述もどんでん返しも無いが、人間の醜さや怖さに一気読みだった。救いのない暗さが、何だか『ノルウェイの森』っぽいなあと思ったのは私だけだろうか。子供の時から暗い衝動を内包しているサヨが恐ろしい。明るい普通の家庭で育ったはずなのに、何故あんなにも残虐な思想に取りつかれているのだろう。ちょっとしたボタンの掛け違いや思い込みが、人生を狂わせていき、坂を転げ落ちていくように不幸が不幸を呼ぶ。スノードームを模した装丁が美しい。2011/08/27




