内容説明
母が死に、1冊のノートが遺された。ドイツ軍が駐留し、レジスタンス運動が巻き起こったフランスの片田舎で、あの日、本当は何があったのか―。追憶のまばゆい光の中できらめく故郷で、あまりにも幼すぎ、無邪気だった私。ノートに綴られた母の心のつぶやきが今、私の胸をえぐり、贖罪の涙を誘う。
著者等紹介
ハリス,ジョアン[ハリス,ジョアン][Harris,Joanne]
フランス人の母とイギリス人の父との間に生まれる。『ショコラ』と『ブラックベリー・ワイン』(ともに角川文庫)の大成功で一躍ベストセラー作家の仲間入りを果たす。毎年のように新作を発表する活躍ぶりで、上質の文芸作品は各国で人気を博している。イングランド北部の小さな町で、夫と娘とともに暮らしている
那波かおり[ナワカオリ]
英米文学翻訳家。上智大学文学部心理学科卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とりあえず…
29
映画にもなった『ショコラ』と『ブラックベリー・ワイン』の姉妹本。読んでいる最中に連想した作品は、前述の2作品ではなく『禁じられた遊び』と『悲しみよこんにちは』だった。 思春期にさしかかる年齢の向こう見ずさと、大人への渇望、認識の甘さが招く崩壊。抗へぬ「血」への恐怖。戦時ゆえの異常さ。そういう要素を非常にうまく取り込んだ作品で、重々しい内容ながら、洒脱な作品に仕上がっています。 「食の三部作」と言われるだけあり、オレンジを筆頭に様々な食材やスパイスの香りが効果的に使われています。2015/02/16
星落秋風五丈原
12
食の三部作の完結編。食は常に登場人物たちを幸せにしてきたが、今回タイトルになっているオレンジは、ある者にとっては外出するきっかけをくれる魔法の果実、ある人にとっては悩みの種。まるで愛憎半ばする本作の母娘の関係のようだ。登場人物がある目的のために1切れを隠したことから、秘密という意味合いも持つ。隠していたオレンジが香りを放つように、秘密もどこからともなく広まってゆく。結果を良いものにするか悪いものにするかは料理人次第。料理の名手フランボワーズが、いびつな自分の人生をどう仕上げるのか、どうぞご賞味あれ。 2014/06/02
Christena
9
ジョアン・ハリスの作品は、食べ物の描写が秀逸。この作品も母の雑記帳のレシピを真似したくなるような、本の中からスパイスやハーブの香りがしてくるような感じ。そして、全編にオレンジの香り。匂いと思い出には密接な繋がりがあると思う。ちょっと切ない母と子の確執、兄妹姉妹の嫉妬、幼い恋心など、綺麗なだけではない色々な感情がオレンジの香りと一緒に閉じ込められているような作品。2019/02/18
ぽけっとももんが
5
何が悪かったのか。とにかく何もかもが、悪い方、悪い方へと進む。ヒステリックな母、反抗期の娘(母親そっくり)の確執も、珍しいケースではないだろう。早熟な9歳が、ちょっとワルい男性に惹かれることも、それが敵国の兵士でないならば、周りを悲劇に巻き込むことはなかったはずだ。戦時下でなければ、家庭内でのいざこざで済んだことかもしれないのに。美味しそうなレシピも、こんな人が作ったんじゃなぁ、とげんなりしてしまうほどのギャップ。美味しいごはんは楽しく作って楽しく食べてこそ。2016/09/13
にゃも
5
ここ最近のベスト。母親との確執、兄姉とのたたかいにも似たやりとり、決して忘れない初恋、すばらしい料理。隠された過去の秘密の重さにもかかわらず、読後はあたたかいものでいっぱいになる。この本が自分の思春期にあったらどんなに救われたかわからない。探しているものがあった、と感じただろうな。たくさんの十代の女性に読んでほしいけど、手に入りにくくなっているのが残念。訳も装丁もステキ。6点!!2012/04/06