内容説明
『雨月物語』の9編の小説は、怪異・伝奇・歴史・翻案小説といった、いくつもの「顔」をもつ。これらは「死」が身近であった中世という時代枠で描かれているが、一見無関係に見える9編には上田秋成の生への不安や生い立ちからくるトラウマが色濃く映し出されている。さらに怪異の美をかたちづくる暗号や語り口が、中国や日本の多くの古典をふまえて構築されていることを解明。秋成の妖美な小説世界の全貌に迫る。
目次
第1章 「生」の不安―怪談とその小説が生まれる基盤
第2章 幻術の文法―怪異表現の視覚と聴覚
第3章 文人作家の誕生―秋成の前半生
第4章 すれちがう主人公たち―作者秋成のトラウマ
第5章 仕掛けられた暗号―歌語・謡曲・俳諧
第6章 もどきの語り口―擬態と再生
第7章 秋成の軌跡―その後半生
第8章 廃墟と音―怪異の美の本質
著者等紹介
井上泰至[イノウエヤスシ]
1961年京都市生まれ。上智大学大学院文学研究科国文学専攻単位取得満期退学。日本近世文学専攻。現在、防衛大学校人間文化学科准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
55
雨月物語の背景を論じた一冊。白峰、仏法僧、青頭巾、それぞれ只事でないくらい魅力的な各編であるが、その背後に隠された秋成の教養を探っていく様は圧巻ですらある。また古典が雨月に与えた影響だけではなく秋成の生涯も共に追い、そのコンプレックスや自負が与えた影響も考察している。本居宣長との対立などは実に面白い。個人的に興味深いのは先行文学との対比と、雨月を支持した近世の文人の所。本書によって雨月物語の魅力が一段と深まったような気がする。貧富論以外ほぼ内容覚えているくらい読み込んだけど、もう一度読んでみたくなった。2015/08/25
みかん。
5
過去に登場した様々な書籍が幽玄の能舞台に立つシテやワキのように登場する。幻想やうつつを扱う本書の文体は硬質で彫琢されている。2023/05/14
みうら
3
上田秋成の孤独な境遇による偏屈さがよく分かった。今まで、有名な序文の「羅貫中や紫式部はあまりに傑作を書いたために酷い目にあった。自分にはそんな事はあるまい…」の下りを単純に秋成の謙遜だと思っていたけど、秋成が指に身体的欠損を抱えていたことで、両作品に雨月物語が匹敵するという自信ともとれる、という事を初めて知った。作品の背後に隠された古典文学や俳諧の暗号、秋成自身の生い立ちなど、怪奇物語として面白い・美しいだけじゃない雨月物語の魅力を知る事が出来た。2012/07/04
七澤
0
雨月物語を現代語訳で読んだ私にはちょっと読みずらかった!2021/07/10
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- 和書
- Best judo.