内容説明
これまで、貴族の視点からのみ論じられてきた平安京。しかし、人口の大半を占めていたのは、貴族たちに仕える庶民たちである。彼らは貴族の供をして宮廷に出入りし、儀式を見物するばかりでなく、炊事、造酒、機織、あるいは鳥や魚の調達等、さまざまな職掌に励んでいた。なかでも牛飼童は副業で運送業をしていたのだ。当時の記録類を駆使して庶民生活を明らかにし、王朝時代の大都市の実像を初めて描き出す。
目次
序章 王朝都市に暮らす庶民たち
第1章 老人たちの語る庶民の身の上
第2章 雑色錦重任の嘆願
第3章 男女の雑色たちの働く姿
第4章 小屋に住む人々
第5章 庶民たちの声
第6章 酒宴を楽しむ牛飼童たち
第7章 牛飼童小犬丸の妻の抗議
終章 都の治安を乱す王朝貴族家の従者たち
著者等紹介
繁田信一[シゲタシンイチ]
1968年東京都生まれ。東北大学大学院文学研究科博士課程後期単位取得退学。神奈川大学大学院歴史民俗資料学研究科博士後期課程修了。現在、神奈川大学日本常民文化研究所特別研究員、同大学外国語学部非常勤講師。博士(歴史民俗資料学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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真理そら
57
平安京で暮らす庶民はどういう存在だったのかを『大鏡』や『小右記』『九条家本延喜式裏文書』等から紹介し解釈した一冊。『九条家~』は九条家に伝わる延喜式の写本が反故紙を利用したものだったため裏に検非違使庁に提出された嘆願書等がそのまま残っていて歴史学者にとってはな貴重な資料となったもの。紙が貴重品だった時代ならではの副産物と言えるし紙に残された記録の意義が分かる気がした。『新猿楽記』を中心に同著者の著作があるのでこれも読みたい(引用部分に当時の食べ物事情があるので)2020/11/26
サケ太
22
これは面白い。平安時代、などと字面でだまされてしまうのは流石にないとしても、そこで生きる大多数の庶民たちについてはあまりにも知らない事が多い。犬丸と呼ばれた人々。貴族の従者たち。雑色。牛飼童たち。平安時代にも多種多様な庶民たちが生きていた。裏切る従者や、それを知らせる従者。武士50人と待ち伏せしてそれを討ち取る話は面白かった。2022/06/27
Toska
16
庶民たちの「平安朝」ではなく「平安京」。特異な人口構成を持つ都に的を絞った結果、登場する庶民はほとんどが貴族の従者に偏っており、その点は注意が必要。それでも、類書の少ない貴重な一冊であることは間違いない。王朝社会を文字通り底辺で支えた名もなき庶民たち。彼らの草根たくましい生き様は、著者一流の活力あふれる文体にマッチしている。大人になることを許されなかった不思議な人々・牛飼童の存在も興味深い。2024/11/05
bluemint
11
1000年前の平安時代。貴族たちの優雅な姿は浮かんでくるが、それを支える庶民の暮らしぶりは全くわからない。著者は、貴族の遺した日記などの記録文書により解明する。清少納言の雪のエピソードは面白い。庭に積もった雪がいつまで消えずに残るか賭けをした。彼女はこれに夢中になり毎日チェックするが、最終日になり確認に行かせると跡形も無くなっていた。清少納言怒り狂い、見張りをしていた庭師は褒美も貰えなかったという話。他にも面白い話が一杯。必要十分な程、関係者図や施設の地図や物価や位階表などが挿入されとても親切。2020/06/23
Ryosuke Kojika
6
庶民といった時に漠然と百姓を想定していた自分の視野の狭さを実感。そもそも平安京が人工的な都市(産業とは無縁)であり、その中心にいたのが貴族であるならば、さらに、そこで暮らす多くの庶民とは貴族に関わる従者である。そして、その庶民と貴族の関係性が現代的な価値観からすれば差別的と言えそうだが、一概に抑圧された哀れな存在とも思えなかった。史料の制約上、類推が多用されるが、そこにいたる著者の想像は一概に的外れではないように感じる。『小右記』を読んでみたい。内裏をうろつく乞食や牛飼にまつわるエピソードが興味深かった。2019/04/08
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