内容説明
ひたすら芭蕉を慕い、山頭火に影響を与え、芥川龍之介を唸らせた明治初期の俳人・井上井月。だがその正体は長い間謎だった―。酒好きで、家も財産も持たず、伊那を約30年放浪した男の知られざる素顔を、近年発見された日記、資料、俳句から探る。唯一の入門書。
目次
1 井月の足音(二つの肖像画;奇行逸話;井月の誕生;伊那谷の井月;酒と食べ物;井月の晩年)
2 井月名句鑑賞(春;夏;秋;冬;新年)
著者等紹介
伊藤伊那男[イトウイナオ]
昭和24(1949)年、長野県駒ヶ根市に生まれる。伊那北高等学校から慶応義塾大学法学部卒業。句集に『銀漢』(俳人協会新人賞受賞)、『知命なほ』がある。日本文藝家協会会員、俳人協会幹事。現在、「銀漢」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ne_viderem
8
井上井月。幕末から明治初期にかけて、放浪しながら句を詠み、お酒を愛してやまず、最後は行き倒れで死んだという無頼なおじさん。師走の田んぼのなかで襤褸をまとったうんこまみれの虫の息で見つかり、しかし村人も扱いかね、戸板に乗せられ隣村まで持っていかれ、さらにそこでも寒空のもと放置(ほとんどヘラクレイトス状態)。やっと弟子にひきとられなんとか布団で死ねた。弟子は辞世の句を求めるが井月はいやいやと首を振る。焼酎を飲ませ筆を握らせ、ようやく書いた句が「何処やらに鶴の声きく霞かな」。素敵すぎやしないか。2018/11/23
conegi
3
つげ義春の無能の人を読んで以来、微妙に興味のあった井上井月。仙人然とした世捨て人というイメージがあったのだが、句を見ると俗っぽい作も多くて意外だった。活動が江戸末期から明治初期だけあり、近代的な句も多いようで、時代の連続性を感じる。本の後半は句の紹介と解説で、個人的にはこちらの方が面白かった。「時鳥 酒だ 四の五はいわさぬぞ」「どこやらに 鶴の声聞く 霞かな」「落栗の 座を定めるや 窪だまり」「鬼灯を 上手にならす 靨かな」「秋たつや 声に力を いれる蝉」あたりがお気に入り。俳句は声に出して読みたくなる。2023/01/14