出版社内容情報
約三〇〇段からなる随筆文学。『源氏物語』が王朝の夢幻であるとすれば、『枕草子』はその実相であるといえる。中宮定子をめぐる後宮世界に注がれる目はいつも鋭く冴え、華やかな公卿文化を正確に描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
81
日本の古典は教材程度、ここ数年専ら海外文学だったので景色の隔たりに戸惑った。にしても稀有な感性、素養と機知。薄二藍、青鈍など多彩な色彩表現。婉曲“けむ”推量“まし”等ゆかしく簡素な助動詞が映す機微。風雅の世界はでも意外にテンポよく緊迫感ある。スピーディにシーン展開する翁丸の話[六]。秘めやかで艶めかしい朝の局[三十三]。屏風の後ろより見る絵に描いた姫君のような淑景舎[一〇〇]等々。訳者石田氏の解説は気迫漲る。清少納言の内なる声が聞こえない疑問も氷解。すると中納言義懐の段の最後の一文が身に沁みる[三十二]。2018/10/06
アルピニア
38
評判通り辛辣な批評の部分も多いが、私は艶やかな衣装や行事の描写に惹かれた。一番印象に残っている段は定子の妹であり東宮の后になった淑景舎との対面の段。定子一族の華やかなりし頃。付説によると父道隆の亡くなるわずか二か月前のこと。その後の凋落を思うとため息が出る。有名な炭で下の句「草の庵を誰か尋ねむ」を書いて返す段の解説によると、このようなやりとりは、中宮の沽券をかけた戦いであり、女房としての資格や価値が問われる瞬間であるとのこと。成果を草子に書くことは、単純な自慢以上に定子勢力を誇示する意味もあったのだろう。2017/04/27
しゅてふぁん
29
『枕草子/上/講談社学術文庫』と併読。角川ソフィア文庫の訳の方が、少し砕けた感じだった。こちらは原文、校注、現代語訳、補注の構成。注釈は主に箇条書きで、全文を読み通すことを目的にするには最適だった。中宮定子にかかわる宮中の様子を書いた日記的章段が面白い。特に藤原行成とのやり取りや一条帝や定子が出てくる章段が好きだなぁ。会話文が「」で区切られており、当時の話し言葉がわかるのが楽しい!何言っているのかよくわからないけど(笑)古語は難しいけれど何となくわかる部分も多く、日本の言葉なんだと思えるところが楽しいな。2017/03/05
瀧ながれ
23
清少納言てめんどくさい性格だあなあ、と思いながら読んでしまった。歌を返すのに、下手な上に遅いのではなんの取り柄もないので手をわななかせて書いて渡したら、後から先方がたいへん絶賛されていたと聞いた、と書き記す謙遜が大回転していっそ嫌味なんですケドな…。衣裳フェチなところがあるのか、重ねの色合いや男性の着こなしなど逐一書いてるのが、キラキラ見えて楽しかったです。だれか画像で再現してくれてないかしら、自分でやればいいのか(沼)。元がどんな風に存在していたものか、少し調べてみたいと思います。2020/08/30
musis
22
本当に生きていたんだなぁ…という幼稚な感想が主で情けない。古文を読み慣れていない。しかし、特に服装の描写に惹かれた。優美だと感じた。色鮮やかで素敵だった。現代語訳を読めば、その辛辣な指摘にどきりとしたり、生活のなかで起こった喜びを感じて自分もうれしくなったりする。今まで帝と聞いてもピンとこない面があったけれど、枕草子では、ああ、ものすごく高貴な方が冗談でお笑いになっている…という憧れに似たどきどき感を持つことができた。なかなか良い体験をしたと思う。2014/05/16