内容説明
古今に材を求めた秋成の短編集を、わかりやすい現代語訳と読みやすい原文で深く味わう―。平城天皇を乱に巻き込み、挙げ句敗れて自刃した愛人薬子の血は飛び散り、乾かないという怪異を描く『血かたびら』、妹の結婚を相手の父に潰された兄の狂気と愛情に迫る『死首の咲顔』、不幸にも敵と枕を並べてしまった遊女は思いつめ、法然上人の下に向かう『宮木が塚』、大罪を犯した男の、晩年の驚きの末路を描く『樊〓(はんかい)』等ユニークな全10編。
著者等紹介
上田秋成[ウエダアキナリ]
享保19‐文化6年(1734‐1809)。読本作者・国学者・歌人・煎茶家。大坂生まれ。本名は東作。号は無腸など多数
井上泰至[イノウエヤスシ]
1961年京都市生まれ。防衛大学校准教授。専門は日本近世文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ehirano1
86
雨月物語の幻想要素はだいぶ抑えられ、歴史事件における権力や芸道にウエイトがあったような印象でした。特に、「海賊」では土佐日記の紀貫之が的にされてしまい、名もなき海賊に言論でフルボッコされる始末(しかも2回も!)で唖然となりました。和魂漢才(日本的精神と中国的学問)の対立がテーマだとは思うのですが、紀貫之同様に中国的学問もKOされていました。2025/10/11
北風
43
テレビドラマ「木乃伊の恋」の原作である円地文子「二世の縁拾遺」の原作の春雨物語。雨月より読みにくいですが、内容は雨月よりバラエティに富んでて好きです。マイベストはやはり「二世の縁」。…「お前らが大事に崇めてる神だの仏だのといったものは、これだけバカバカしいもんだよ!」という秋成の意地悪な声が聞こえてくるかのようです。2016/01/19
ワッピー
38
「怪談を読む・書く」から派生。上田秋成・晩年の小説集。怪異は本筋ではなく、秋成の文学論や観念を提示する装置として使われます。平城天皇の懊悩と反乱を扇動した薬子の自決「血かたびら」、色好みの寵臣・良岑宗貞の出家と栄達「天津処女」、土佐日記に仮託した文学論「海賊」、即身仏の復活と意外な結末「二世の縁」、深夜の文学論「目ひとつの神」、親のエゴと悲劇「死首の咲顔」、想定外の敵討ち「捨石丸」、苦界に堕ちた姫の愛と死「宮木が塚」、刹那に生きる男のピカレスクロマン「樊噲」を収録。「雨月~」におとらぬ名品揃い。おススメ!2021/07/24
オザマチ
12
「目ひとつの神」に登場する怪異の描写が面白く、想像してちょっと笑ってしまった。あれなら僕も会ってみたいくらいだ。しかも、解説によると、あの神は●●を表しているらしい。あんな風に面白可笑しく表現できるのは凄いな。2020/12/05
ミコヤン・グレビッチ
10
「雨月物語」の上田秋成の作。当時は出版されず少数の写本しかなかったのだが、明治時代に再発見され、佐藤春夫が「雨月物語より断然こっちが良い」と激賞したとか。「雨月」との違いは明確で、あちらは様々なかたちの霊や超自然的な現象を描いた話が多いのに対し、こちらはリアルな人間たちが演じる奇譚が並ぶ。たとえば、インテリ海賊が紀貫之に絡む話、庭に埋まっていた即身仏を掘り起こしてみたら…という話、あるいはやくざな若者の半生を描いたピカレスクロマンもあれば、切ない終わり方をする悲恋ものや遊女の話もあって、とても面白かった。2023/03/03
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