内容説明
かつてこの国にあった美童文化。江戸・明治の錦絵に刻まれた男倡の影。文豪が変名で寄せた同性愛小説。菊、梅、杜若、水仙の華に込められた、若契と衆道のサイン―。幾重にも響きあって呼応する文化の複層にわけいれば、ときに秘され、ときに失われた男色の景色が浮かびあがる。万葉集の相聞歌から、平安貴人の日記、世阿弥、琳派、三島由紀夫、川端康成、中原淳一まで。今はなき東京の盛り場を訪ねた「東都戦後男色地図」を増補。
目次
第1章 嘆息
第2章 連れ鳴く雁
第3章 一条の水脈
第4章 華苑
第5章 そへ歌
第6章 礼装
東都戦後男色地図―あとがきにかえて
著者等紹介
丹尾安典[タンオヤスノリ]
1950年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学文化構想学部教授。美術史・イメージ分析を主領域としながら、多岐にわたる分野の論文や評論を発表(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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HANA
64
大杉栄や会津八一、三島由紀夫に川端康成といった近代文学から江戸の衆道文化、万葉集まで日本文化の中を地下水脈の如く流れる男色の流れを追った一冊。といって堅苦しい学術書ではなく、随筆のように伸びやかに次ぎから次へと話題を出してくれるので読んでいて飽きることがない。その出してくる話題も、この分野では欠かすことの出来ないや岩田準一の評伝もあり、三島由紀夫と「薔薇族」の関連もありで極めて興味深いものばかり。他にも琳派の絵画と男色、『伊豆の踊子』を男色の観点から読むという論もあり、正否は兎も角、観点は実に面白かった。2019/11/16
浅香山三郎
12
江戸から戦後まで、都市や青少年の生活世界のなかの男色のあり方を文学作品・図像を駆使して論じる。岩田準一を扱ふ「連れ鳴く雁」、『伊豆の踊子』の意外な読み方を示す「礼装」、また、あとがき代はりといふ「東都戦後男色地図」など、文化史的な面白さに富む。2023/08/08
冬見
12
そういう文脈でも読めるのか……と興味深く読み進めた。「一条の水脈」「華苑」「そへ歌」はあたりは読めてよかった。そのコミュニティー、文化圏、時代にいなくては知り得ない、それこそ「わからないことすら感知できない」文脈は確かに存在しているから、それにアクセスする手掛かりとして本書は大いに助けとなった。見える世界を変えるフックを授ける一冊。本書の内容とは関係ないが、個人的に文学研究の文章を久しぶりに読んだのでとても楽しかった。こういうことが好きだったな、と思い出す。紐解く楽しさ、喜びが胸に甦った。2023/02/08
パット長月
8
誠に興味深い。この方面を無視して、日本の文化史は語れないのではないかという気がしてくる。それにしても、かの国宝たる尾形光琳「紅白梅図屏風」のセクシャルな解釈にはのけぞった。また三島のそれは周知のものとして、川端も・・・。やはり日本文化の底流にはそれが脈々と・・・。最後の「あとがきにかえて」も、これを頼りにかの地を探索してみたい誘惑にかられる?逸品。2019/07/18
あかつや
4
日本文化を理解する上で避けては通れない男色の風習について、証言や文献から読み解いていく。梅だの菊だのがきれいに咲き乱れてんなあ。戦後それが薔薇にもなったのは、具体的な見た目の問題だろうか。ちょっとあることないことな面も感じさせるけど、まあそういうのは身近なとこに愛好家のお嬢様がいらっしゃったから慣れてるよ。何にでもカップリングを見出す彼女たちと共通する所だろう。しかしやっぱり三島は臭かったか。ワキガがキツくて甘い匂いとかいうこの本にも引用されてる部分、以前に読んでそんなわけねえだろって思ってたんだよなあ。2023/05/02