内容説明
不眠症の高校生・桧山は毎夜窓の外を見下ろし、夜の町に深い海のような孤独を見ていた。そんなある夜、やはり眠れずに彷徨していた同じ学校の矢鳴に声をかけられる。矢鳴の幼馴染みキューピーさんも加わって、不思議に心地よい日々が始まった。だが、矢鳴はある奇病に罹っていたのだ―羽が生えて四散する肉体。喪った掌の温度、嫌いすぎて触りたい関係―切実な痛みに満ちた、かけがえのない物語。
著者等紹介
埜田杳[ノダハルカ]
1986年、静岡県生まれ。2006年「些末なおもいで」で第2回野性時代青春文学大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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キキハル
23
皮膚を冷たい炎でなぶられるようにひりひりする。これは別れと喪失の物語。不眠症の檜山に会いに真夜中にやってくるのは部活仲間の矢鳴。彼は羽根が生える奇病に罹っていた。体の各部に羽根が生え、やがて羽ばたき一部分ずつ自由に飛び去り死に至るのだ。好みの文章ではないが何かしら残るものはあった。2編の短編も衝動の熱が感じられて面白く読んだが、堪能するにはこちらの純な若さが足りないということか。三浦しをん氏の解説の言葉「喪失は一回限りの経験ではなく、現在形で進行する現象だ」が、いちばん沁みたかもしれない。2013/05/23
ガミ
12
3人の高校生(不眠症の檜山、奇病を患った矢鳴、孤独を好むキューピー)の青春について、暗い部分で悩みながらも時が流れていく物語「些末なおもいで」を中心に短編をまとめたものです。矢鳴の奇病は、体の部分部分に羽が生えて、少しずつなくなり、最後は消失してしまうものですが、気味悪い病気ながらも、それを感じさせないのは、埜田さんの穏やかな文章の表現の仕方があるからだと思います。序盤に始まる回想を含む淡い自然描写、そしてその描写を繰り返しつつも、薄れていく青春(喪失)を含めてしめる終末にこの作品の美しさを感じました。2015/10/01
陽月
12
切なくて痛々しくて、苦しい。ただただ最後まで自分の何か晒されたくない部分が晒され続けるような本。ですが、好きです。綺麗な脆いガラスみたいな。キューピーさんに向けた矢鳴の思い、キューピーさんも知らない一ヶ月の夜。綺麗事じゃない残酷さと青春の曖昧さが好きです。2012/04/27
むつぞー
10
喪ってしまったモノへの想いにあふれた作品です。 特に「些末なおもいで」が素敵。ファンタジーな設定も美しく、ここで描かれた感情は静かで、それゆえどこかガラスの向こうを見ているような気もします。 海の底みたいな夜の町、些末という言葉の選び方も、持て余してしまうような想いが痛いほどに美しく、切なく響きます。 個人的にはものすごく好みだわ! 2009/09/17
紫伊
7
3作とも言葉にうまくできないけれど、でもどこかに持っている高校生の切なさ、儚さのような感覚が物語として訴えられている。それはきっと一言で表現できるようなものではないのです。特に「些末なおもいで」はキラキラしている青春ではなく、治療法がない神秘的な奇病にかかったクラスメイトとの淡々とすぎる日常。静かに切なく美しい作品でした。2017/01/08
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