内容説明
改札から出ようとして気が付いた。ないない、キップがない!「キップをなくしたら駅から出られないんだよ」。どうしよう、もう帰れないのかな。キップのない子供たちと、東京駅で暮らすことになったイタル。気がかりはミンちゃん。「なんでご飯を食べないの?」。ミンちゃんは言った。「私、死んでいるの」。死んだ子をどうしたらいいんだろう。駅長さんに相談に行ったイタルたちは―。少年のひと夏を描いた鉄道冒険小説。
著者等紹介
池澤夏樹[イケザワナツキ]
1945年北海道生まれ(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
528
時は昭和の晩年、都内でキップを失くした子だけが集団生活をする、という習慣があった…なんとも胡散臭い(笑)これは一体ジャンルはなんだろう、さしづめファンタジーか、と読み進めると、第4章の「ミンちゃんの話」あたりで心をグッと掴まれる。これは「命」のお話。「友情」あるいは「生と死」のお話。大切なひとを亡くしたことのある人にはぜひ読んできただきたい。幸いにしてそんな経験のまだないわたしにも、読後こころにポッと光が灯るような、そんなお話だった。2023/02/20
とろこ
64
少し不思議で、けれど、とても素敵な物語だった。山手線内で切符や定期券を失くした子供たちは駅から出られなくなり、詰所に集められて、「駅の子」と呼ばれる存在になる。駅の子たちは、一般の人には見えたり見えなかったり。彼らの仕事は、電車通学の子供たちの安全を守ること。ある日切符を失くしたイタルも駅の子になり、個性的な仲間と協力しながら奮闘する。駅の子とは何なのか、をはじめ、色々な謎も散りばめられている。生きるとは何か。死ぬとどうなるのか?仲間との別れ…。不思議な世界に足を踏み入れた子供たちの、魂の成長譚。2020/12/30
夜長月🌙@読書会10周年
61
東京駅で暮らす子どもたちの鉄道ファンタジーです。まだSuicaがなくてキップだった頃のお話し。切符は小さいので、よく失くしたかもと焦った思い出があります。切符を失くすと改札を通り抜けられません。そうした子どもたちが東京駅で集団生活をしています。彼らには崇高な使命があり各自、一夏のうちにめきめき成長していきます。2023/06/16
眠る山猫屋
60
切符を無くして駅から出られなくなったイタルは〝駅の子〟として、同じ境遇の子供達と生きていく。とは言え、悲愴感はない。駅弁食べ放題、仮眠室あり、電車も好きなだけ。ただし家には帰れない。そんなファンタスティックな縛りの中で、仲間の一人、幽霊であるミンちゃんのためにイタルたちは世界の謎を追求していく。独特の死生感が若干気になるが、後半はなんとなく薄暗いイメージの駅舎から飛び出して、みんなで北海道まで遠征。この手の物語にありがちな記憶改竄や喪失もなく、明るく巣立っていく。昭和の子供達は強かった。2019/08/06
honoka
58
今作は容易にファンタジックな世界に飛んで行けたけど何度も泣くはめに。キップを無くした子どもが集められ「駅の子」と呼ばれて子ども達を救う「仕事」をする。子ども達が無垢な心で人のために考え行動する様子にハッとさせられる。赤ちゃんの「三日だけど、とっても楽しかった」が印象的。スティル・ライフよりこちらを先に読めば良かったな。きっと素直に大人のファンタジーに浸れたと思う。が、これはリアルスティックな物語だとする解説も大いに興味深い。その時が来た時、ミンちゃんママの様に悟れるだろうか。2016/02/02