内容説明
杜甫は、「詩聖」とたたえられる中国詩上最も偉大な詩人。若いときから各地を放浪し、現実の社会を見つめつづけたその詩は、古来、多くの日本人に愛読され、日本の文学にも大きな影響を与えた。著者が愛した長編の詩の中に、繊細かつ詩情豊かな、杜甫の真の魅力を発見する。
目次
長安浪人生活の歌
安禄山乱時の歌
安禄山乱後の作
成都草堂生活の歌
〓(き)州寓居の歌
湖南水上の歌
著者等紹介
黒川洋一[クロカワヨウイチ]
1925年広島県生まれ。元大阪大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しゅてふぁん
28
『詩聖』杜甫の作品集。『詩仙』李白との違いを見つけられればと思いながら読んだけれど、漢詩初心者の私には違いが良く解らなかった、、、ただ、李白の詩の方が庶民の感覚に近い感じがした…かなぁ(^^; 韻を踏んだ文章は読んでいるだけで気持ちが良いし、漢字を眺めているとなんとなく伝わってくるものがある。和訳がないと読めない原文が横文字の詩と比べると得した気分になれるのがいいな(笑)2017/11/20
かふ
23
杜甫が叙事詩的な歴史を語りながらそこに個人としての叙情性を詠むというのが、芭蕉や日本の詩人や俳人に受け入れられたのは李白のように達観して自然の中で酒を飲んでいるというのではなく、まだ変革の希望があったからだろうか。それは杜甫が家族に抒情性を感じていたので、尊い家族の絆と自然の恵みや氾濫の中に盛者必衰の個人の情を詠む。それは『平家物語』のようでもあり、橋本治が『双調 平家物語』で安禄山の乱を取り入れたのは、杜甫の影響があったのかもしれない。叙事詩と抒情詩の邂逅が杜甫の詩の中にある。2024/10/20
寝落ち6段
16
唐代の詩聖・杜甫。「国破れて山河在り」で有名であるが、どのような人物で、どのような詩を生み、どのような評価なのかを全く知らなかった。結構真っすぐな人間で、理想を抱き、目の前の家族を大切にする。どこにでもいるという評価もできる人物だった。だからこそ、家族のちょっとした変化や、周囲の自然の動き、町の人々の苦しみに目を向けられたのだと思う。その後の時代に、受け入れられたのも、誰もが持っている感情を揺さぶられる気がしたからなのだろう。海を越えた日本で、多くの人に読まれてきたのも、原始的な心象に搏つからなのだろう。2024/07/03
とんこつ
11
生涯に沿って各時代の作品を鑑賞し、解説するという入門書としてとても読みやすい1冊。その上で、どの作品も味わい深く、杜甫の世界観に浸りながら心地よく読み進めていった。盛唐の絶頂期から、安史の乱の不穏な時代を経験し、自身も幾度も不遇の時を過ごす。晩年にかけて作品が成熟していくさまはそのまま杜甫自身の成熟を見ているようだった。漢詩には、中国の大陸そのままのような無限大に広がる空間がある一方で、花びらの微かな変化にも気がつくような繊細さも存在していて、かの国の人間や人生を見る目の鋭さは侮れないと改めて思った。2021/07/02
大先生
7
「国破れて山河在り」杜甫の詩のうちで、もっとも有名なものであるが、特にすぐれるわけではないそうです(笑)。有名になったのは、松尾芭蕉が「奥の細道」で「国破れて山河あり、(中略)夏草や兵どもが夢の跡」と詠んだから。杜甫の詩が優れているのは、大きな情熱に富んでいるから。従来の詩は、感情をむき出しにすることを嫌って、上品に、優雅に歌うのが普通だったそうです。確かに、杜甫の詩には、憂鬱や怒り、喜びや悲しみといった感情がストレートに表現されています。劉備や孔明が好きだったようです。2025/02/24