出版社内容情報
優雅にタンゴを踊りながら、このつらい世界を生きのびてゆこう。南国のスコールの下、タンゴに取り憑かれた国籍も年齢も不詳の老嬢の口から、長い長い恋の話が語られる……東京、ブエノスアイレス、サイゴン――。ラテンの光と哀愁に満ちた、神秘と狂熱の恋愛小説集。
中山 可穂[ナカヤマ カホ]
著・文・その他
角川書店装丁室 大武尚貴[カドカワショテンソウテイシツ オオタケヒサキ]
著・文・その他
内容説明
インドシナ半島の片隅の吹きだまりのような廃墟のような一画にそのカフェはあった。主人はタンゴに取り憑かれた国籍も年齢も不詳の老嬢。しかし彼女の正体は、もう20年も前に失踪して行方知れずとなった伝説の作家・津田穂波だった。南国のスコールの下、彼女の重い口から、長い長い恋の話が語られる…。東京、ブエノスアイレス、サイゴン。ラテンの光と哀愁に満ちた、神秘と狂熱の恋愛小説集。
著者等紹介
中山可穂[ナカヤマカホ]
1960年生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒。93年『猫背の王子』で作家デビュー。95年『天使の骨』で朝日新人文学賞を、2001年『白い薔薇の淵まで』で山本周五郎賞を受賞。研ぎ澄まされた文体、深い叙情性、幻想的イマジネーションの飛翔といった独特の作風で、新作を熱望されている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あんこ
35
立て続けに中山可穂の小説を読んでいる。きっと中毒。そうでなければ、わたしはこの文章に辟易していたかもしれないと思わずにはいられない。散りばめられる何処かの国の薄暗い路地裏のような倦怠感と絡まるような熱いタンゴの空気にいつの間にか酔ってしまう。普段ならこのような文章も甘ったるくて痛々しい愛の物語なんて途中で止めてしまうのに止められない。2014/04/04
有理数
25
あーーーーーー、もう、助けてください、と読みながらひれ伏すように、静謐で穏やかな文章が私の脳内で火花を散らす、ざくざくとむき出しの感情でこれでもかと貫いてくる、あまりにも痛く、眩しい恋の短編集。いや、でも助けられなくてもいい、この文章に溺れられるならば。どの短編も非常に面白いのですが、やはり中編の表題作でしょう。作家と編集者、それぞれの道をひたむきに歩まざるを得ない人たちの魂の強烈な叫びと愛の物語。全編タンゴの脈動と音色に彩られた、素敵な一冊でした。2017/04/25
冬見
20
濃密に絡み合う過去と現在に翻弄されながら、息を潜めて読み進めた。中山さんの作品はいつも私の息の根を止めようとする。切迫感に満ちていて、息苦しい。追い立てられるように読み進めてゆくうちに、いつの間にかこの世の果てみたいなところに辿り着いている。幕が降りても帰り道が分からない私は、呆然と立ち尽くすだけ。2017/01/12
あまりりす
19
ああ、やっぱり中山可穂さん、好きです。。。セクシャリティ云々ではなく、彼女の描く恋愛は、重く、熱く、切なく、でも読まずにはおれない、尋常ならざる魅力(魔力?)が溢れています。表題作の、まさに締め付けられるような切なさたるや!読後すぐにアルゼンチン・タンゴを検索してしまうほど、のめり込みました。。。あとがきでも涙が滲みました。とても美しく、物哀しい世界、それでいて希望も見える、本当に素敵な作品でした。ああ、この本に出会えてよかった!2014/05/17
kaoriction@感想&本読みやや復活傾向
17
そう、私は中山可穂中毒だ。定期的に中山作品を欲する。毒を欲する。半月ほど前から禁断症状は出ていたのだけれど、なかなか未読の中山作品に出会えず、ようやく手に入れた作品。重度の禁断症状。貪り読んだ。読み進め、いつもとは違う毒性に戸惑った。でも、そこにはちゃんと中山麻薬がある。こんなのもありかな、と、最終話、作品タイトルの『サイゴン・タンゴ・カフェ』でノックアウト。中山麻薬。中毒は健在だ。食事も摂らず毒を堪能した。そして、いつものことながら、あとがきに涙した。この世の淵でギリギリ生きる人の言葉には、嘘がない。2012/12/14